原作開始前
EP.1 砂浜の少女
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だ――口の中に広がった甘い果汁に思わず顔を綻ばせて、夢中で食べ始めた。
「たくさんあるからそんなに急がなくても……」
「ッ!? ゴホッゴホッ!」
「ほら、言わんこっちゃない……ほら、飲め」
まるで何日も物を食べていない浮浪人のようにがっつく少女。
その姿に何が起こるか幻視したワタルの警告通りに果物を喉に詰まらせため、水筒を少女に渡す。
「……その……すまない」
「何、気にするな。落ち着いたか?」
「ああ……その、あなたは誰なんだ?」
慌てて飲み干し、ようやく落ち着いた少女は気まずい様子を見せながら名を尋ねた。
「俺か? 俺は――ワタル・ヤツボシ。今は……まあ、訳有って大陸中を旅している魔導士さ、君は?」
はぐらかすように答えたワタルの問いに、少女は訝しげな表情を見せながら言葉を詰まらせたが、口を開く。
「……エルザ。エルザ――スカーレット……」
姓を名乗るときに少し詰まったエルザの様子から『訳有りみたいだな……』と、ワタルはそれ以上踏み込まず、次の質問をする。
「そうか。じゃあエルザ、何故あんなところで倒れてたんだ?」
「それは、その……」
俯いて、今度こそ言葉を詰まらせてしまうエルザ。
そんな彼女にとって、次にワタルが口にした単語は聞き逃せないものだった。
「『ジェラール』」
「えっ!?」
人名か地名か、はたまた別の何かか――そう当たりを付けてワタルが口にした単語にエルザはひどく驚き、目を見開くと険しい目つきになった。
その名が悪い意味で特別だったのだろう、と考えたワタルは睨む彼女に溜息と共に答えた。
「図星か。寝言で言ってたぞ」
「く……」
知らない男に寝言を聞かれていた事を知り、憮然とした表情で言葉に詰まるエルザ。
黙り込んでしまった彼女に、ワタルは一旦話を打ち切り、別の事を聞く。
「……まあ、言いたくないなら聞かないさ。それより、これからどうする気だ?」
「待て、私にも聞かせろ。何故私を助けたんだ?」
「何故、と言われてもな」
警戒心を見せるエルザに、ワタルは少し考えると答えた。
「ここで休んでたら叫び声を聞いてね。それで様子を見に来て、倒れている君を見つけた、という訳さ」
「だからそれを何故かと……」
「君は目の前で死にかけている同い年くらいの子供を見捨てて、その後気持ちよく過ごせるか?」
「う……」
ワタルのそんな問いに、少女はまたもや言葉に詰まってしまう。
きっと正義感の強い女の子なのだろう。ワタルは彼女にそんな印象を抱いた。
だが実のところ、なぜ彼女を助けたのか、ワタルは自分でもよく分からなかった。
怪我していたから助けたとは言ったが、放っておいて何食わぬ顔で旅を
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