原作開始前
EP.1 砂浜の少女
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目は使い物にならなくなっており、素人の手では治せるものではなかった。
「とりあえず水で洗って、薬塗って、終わりかな。さて、これからどうしたものか。……って言っても、まずはこの子が起きないとどうしようもないけど」
一人旅の弊害か、癖になりつつある独り言に終止符を打つ。
手当が終わっても、彼女は静かに寝息を立てるばかりで起きる気配を全く見せなかったため、予備の毛布をその子にかけると、ワタルは岩壁に寄りかかって今度こそ眠りについた。
= = =
「う、ううん……ッ、ここは、ッ! あ、つぅ……!」
翌朝、差し込む朝日の眩しさから少女は目を覚ました。
少女はここが浜辺でない事に気が付くとすぐに慌てて毛布を跳ね除け、結果的に身体中の痛みに悶える羽目になった。
「いたた……あれ、手当されてる? 一体誰が……ッ!」
幸か不幸か、その痛みで意識を完全に覚醒させた彼女は全身の怪我を、清潔な包帯で治療されている事に気付いた。
軟膏でも塗ったのか、少しベトベトしているが幾分か和らいでいる身体の痛みに呻きながら首を回しては辺りを見回すが、そこは意識を失って倒れた砂浜ではなく、すぐそこに海が見えるほどに小さな洞穴。
傍には焚火の跡と荷物と思しき大きなリュックサック、知らぬ間に手当てされた事と少女によって乱暴に跳ね除けられたこの毛布――誰かに助けられた事は明白だが、今は周りには誰もいない。
さて、どうしたものか……状況がまるで掴めず、そう途方に暮れたその時だ。
コツコツと岩を打つ足音が突然響いた。
囚人、塔を建造する奴隷として生活していた彼女には、段々大きくなるその音は乱暴な看守の歩く音を連想させ、無意識に体を強張らせる。
十中八九、自分を運んだものの足音だろうと考えた彼女は身構えた。
「まあ、こんなものか。……っと、目が覚めたか」
「お前は、だ、れ……」
「あー……食べながらでいいだろ、それは」
洞窟に入ってきた少年・ワタルは果物を両手で抱えるようにして持っていた。
少女は彼が誰なのか尋ねたが……キュゥとかわいらしい音が腹から響き、思わず赤面してしまう。
「……」
「何も入れてやしないよ。…………ほらね?」
ワタルは思わず笑いながら少女に幾つか果物を渡す。しかし気安さを感じさせるその笑みとは対照的に、少女は警戒の表情を崩さず、食べる様子を見せない。
それを見て内心少し傷つきながらも、彼は笑いながら彼女の腕からリンゴを1つ取ってかぶりつくのだった。
「……あ、ありがとう……ッ!」
少女は先の失態を取り返すように礼を言うと、果物に口を付ける。
一口かじると、随分久しぶりに――塔にいた時は果物など出されなかったの
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