3部分:第三章
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「それが何故虫が潜んでいたんですか?」
「ごくごくたまにあることなんです」
医者は落ち着いた声で語った。
「真空状態で生きることが可能な微生物もいるのです。しかも雑食性の」
「それが缶詰の中に入っていたということですか」
「おそらくは。まだ断定はできませんが」
医者は答えた。
「ただ一つ言えることがあります。残念なことですが」
「それは何でしょう」
彼は尋ねた。
「貴方は非常に運がなかったということです」
「・・・・・・・・・」
彼はそれを聞いて言葉を失った。
「こう言っては見も蓋もありませんがこうしたことは普通は考えられないことなのです。缶詰の中にそうした寄生虫が
潜んでいることなぞ」
「そうですか、やはり」
「それだけではありません。それが未知の種であるということも。貴方はそうした意味で非常に不運でした」
「正直言って有り難いものではないですね」
彼は顔を暗くさせた。
「命こそ助かりましたがね」
「それは幸運と言っていいでしょうか」
「当然です。命がある限り人には運が巡ってきますから」
「そうであって欲しいですね」
彼は憮然とした表情でそう言った。
それから二週間後彼は退院した。そして仕事に復帰した。
彼の中にいた虫の存在は後日学会で発表された。これは医学会に一大センセーションを巻き起こした。それ程までに恐るべき虫であったのだ。
だが彼はそれをどうでもいいことのように感じた。助かった命を大事に使おうと思った。
さしあたって彼はそれ以降生ものを食べなくなった。必ず火を通すようにした。
当然缶詰には見向きもしなかった。彼はそれから缶詰に限らず海外の食品にもかなり厳重な警戒をするようになった。
食べ物 完
2004・5・12
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