月下に咲く薔薇 8.
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の建物に逃げたり非常口を探したりと右往左往していた。
近くの店の店員は制服のまま棒立ちし、そのうちの1人が携帯で誰かと話をしている。「怪獣が…!」と喚き立てる青年の声を、クロウ達は聞き取った。
「なるほど。こいつぁZEXISの領分みてぇだな」
ようやく館内放送が入る。施設側は、あくまでA棟で不審物を発見したとの説明に徹し、客達に店員の指示に従うよう促していた。「怪獣」の情報の拡散を避けさせたのは、扇の機転なのかもしれない。
『走らず、店員の指示に従って下さい…』
流れるべき放送が充満すると、店員達も声を張り上げ最寄りの非常口に客の誘導を始める。
人の動きが幾らか変わった。放送で初めて異変を知った客は凍った表情のまま耳を澄ませているし、誘導の声も全員の耳に届くようになった為、走る者がいなくなった。
それでも、わざわざ自らの目で異変の正体を確認しにやって来る者はいるし、「ロッカーに荷物があるから」と店員に噛みついて人の流れに逆らおうとする者もいる。
ミシェルやデュオ達は、そこに飛び込んでいった。
クランも背を向けたまま、「クロウ、お前は『怪獣』が何なのか確かめてくるのだ! 必要を感じたら、バトルキャンプに通報しろ」と小声で指示し走り去る。
「後は任せたぜ!」
携帯端末でロジャーと話していたロックオンも、端末をしまうと人混みの中に消えた。
「俺の判断か。なら、見届けない事には始まらねぇな」
吹き抜けの場所は、コーヒー・ショップから10メートルと離れていなかった。
背広の中年男性と花屋の青年店員がそれぞれ震える手で携帯を握り、見上げたその先にあるものを報告している。「俺達も逃げたい」と顔に書いてあるその様子が、何とも不憫だ。
「ZEXISが来たから」と逃がしてやりたいのは山々だが、生憎こちら側の対応だけで全ての客と店員の安全を確保してやれる程、施設内部に詳しくはない。
「軍の人間だ」と自らを紹介しつつ、共に『怪獣』の正体を確認してやる事が、クロウに出来る精一杯だった。
「先程より、だいぶ形がはっきりしてきました」
「さっきは、白い何かが浮いているとわかる程度だったから…」
施設側の人間と思しき背広の男と店員が、怯えた目線で上方を指す。
いよいよ『怪獣』とご対面だ。携帯端末を取り出し、握ったまま吹き抜けを下から仰ぐ。
一瞬、我が目を疑い迂闊にも絶句してしまった。想像と余りにかけ離れていたものがそこにあった事で、クロウは次の反応に迷う。
布の飾りの合間から、激しく上下する白い何かが見えた。
歯だ。見た通りのものだとしたら、大きな口から行儀よくこちらを伺う白い歯列が、上下段きれいに生え揃い、あろう事か宙に浮いている事になる。
高さとしては、扇の話の通り5階まで貫く吹き抜けの4階辺りか。1本1本
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