月下に咲く薔薇 8.
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立体駐車場に入った途端、見通しの悪さにまず驚く。既にかなりのスペースが乗用車で埋められているのだ。
開店してからまだ1時間少々しか経っていないというのに、この車の数。どれだけ遠方からこの大型店に人々が集まっているのかと、クロウのみならず、このショッピング・モールが初めての者達は皆呆けずにはいられない。
様々な場所に車を停め、携帯端末で連絡を取りながら全員がショッピング・エリアに入った時、目を輝かせている女性達や斗牙に混じり、数人の男達は既にげんなりと疲労感を滲ませていた。
「どうしたの?」とアレルヤがデュオを振り返れば、「赤ん坊さ。エレベーターで乗り合わせた赤ん坊のおかげで、痛いし騒がしいし。大変だったんだぜ」と某かの被害者として肩を落とす。
「デュオは、その子に髪を引っ張られて」頭を下げる中原が、改めてデュオに謝罪する。「その子のお母さんが赤ちゃんを、私がお下げ髪を外したら、急に泣き出したんです」
「いや、別にいいんだ。誰が悪いんでなし」軽く右手を挙げ中原を制止するデュオが、「んで、そっちは?」とエイジに子細を問う。
「いきなり斗牙が迷子になりかけ…」言うなり、エイジが斗牙の肩を力任せに引き戻した。何と斗牙は、1階から5階まで貫いている大きな吹き抜けを見たいばかりに、1人足早に離れようとしているではないか。「だから、ほら! また、さっきみたいになりたいのか!?」
「きれいだよ、エイジ。僕は、あの飾りの近くに行きたい」
「買い物の後にしろ。それが、みんなとの約束だろ?」
斗牙の執着ぶりが気になって、クロウの他何人かが件の飾りを仰ぐ。
彼を虜にしている「あの飾り」とは、5階の天井から吊されている縦長な照明付きの店内装飾の事だった。様々な色を織り込んだ暖色の布と照明で構成され、照明もさる事ながら布装飾の珍しさに、なるほど惹かれるものがある。
名残惜しげに装飾から顔を背けた斗牙が、「そうだったね。しよう、買い物!」と切り替えて皆を見回した。
「ああ。別に、吹き抜けは逃げやしないさ。後で、俺が付き合ってやるよ」
「ありがとう、エイジ」
「では、まず食料品の調達から始めよう。それぞれやりたい事があるだろうが、全てはその後だ」
引率者らしくロジャーが、壁の前に立てられているアクリル製の館内案内図を視線で示す。全員の携帯端末にも同じデータが入っている為、敢えて確認する必要はない。
しかし、建物1つが異様に大きい上、3階の現在位置から最奥棟の1階にあるスーパーまでひたすら徒歩で移動する必要があった。他に客も多く、最短距離を狙った小走りなどは目立つという理由も加わって論外だ。図面だけから見積もる以上の困難は、容易に想像がつく。
「諦めて、道なりに歩くしかなさそうだが…」
警戒心を強める扇の隣で、「ちゃっちゃと通り抜けた
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