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月下に咲く薔薇
月下に咲く薔薇 8.
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 外の空気を浴びた途端、無防備な首や耳が真冬の冷気に晒される。気温は上がり始め朝よりは幾分人に優しくなっているが、北風の名にかけ冷気を運ぶ事をやめるつもりはないらしい。
 昨夜、シモン達子供ばかりかボビーさえ震え声にした冷気の突風を思い返す。バトルキャンプに到着し艦を降りたばかりのクロウ達を出迎えたのは、真っ白な息さえ吹き飛ばす容赦のない北風だった。
 ドラゴンズハイヴのように母艦を収容する術を持たないこの基地では、鑑から降りた者は建物まで屋外を走らなくてはならない。寒さに身を縮ませ小走りで誘導に従ったパイロット達は、改めて龍牙島の有り難みに心を浸した。
 ZEXISを支える基地の中でも表の顔として機能するバトルキャンプが母艦の繋留施設を備えていないのは、不自然と言えば不自然だ。人間同士が繰り返す足の引っ張り合いという不毛な言葉を頭の中で打ち消し、照明を頼りにバトルキャンプの良いところを探した。
 地上部分に重要な施設を置いていないのはドラゴンズハイヴと同じで、始終潮風に晒されているところも龍牙島の孤立ぶりを思わせる。
 ただ、深夜にもかかわらず動いている隊員の多さが目についた。極少人数で切り盛りしている秘密基地とは、抱えている人間の桁がもそも違うのだろう。頭ではわかっていても、目にすると頼もしさが増す。
 彼等は、深夜の北風に嫌な顔一つせずクロウ達を出迎えてくれた。それだけで、寒気が和らいだ気がする。たとえそれが、心中のものだとしても。
 いいものだ。人間がいる光景というものは。
 午前10時47分。母艦が見えているのに敢えて背を向け、屋外の駐車場を目指して5人で小走りをする。
 風が吹き抜ける度に、クロウの先を行くクランが「くぅ!」と体を弾ませ短いスカートで果敢に冷気と闘っていた。「日が昇ったらもっと暖かくなると思っていたぞ。日本は、暑くて寒いのか」
「ま、そういう地域はあちこちにある。自然のままってやつだからな」地球生まれのロックオンが、一旦立ち止まって目を細める。「フロンティア船団にはないのか? 気候の変動があるブロックとか」
「ない」クランが、まず断言から始めた。「アイランド1などは多少気候に変化をつけているが、真夏や真冬までは再現していないのだ。それは、他のアイランドで楽しむものだからな」
「なるほど。そうやって金を回しているのか」上手い事をやるものだと、クロウは船団のシステムに本気で感心する。「敢えて変化を提供せず、自分から刺激を求めるように仕向ける訳だ。船団側は、最低限のものだけを供給すればいい。個々のアイランドの管理がシンプルにできるし、温暖なもので満足できない人間は自主的に行動して、他のアイランドに金を落とす、と。…いい事ずくめじゃないか」
「その辺り、コロニーの考えも似たり寄ったりだな」デュオが駐車場に向かって
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