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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第三八話 心の隙
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それが実戦に備える訓練であるのだから当然だ。
 戦術機の訓練だって、常に命の危険がありその最中に起きた事故で命を落とす、再起不能となるのはそう珍しい話ではない。

 戦術薬物が体質に合わない上での過剰投与で心を壊した人間を見たこともある。
 訓練中の操作ミスや判断ミス、危険行為による死亡事故は日常茶飯事だ。その危険を推してなお挑み、獲得するのが実戦技術というものだ。

 剣術の鍛錬とて、模擬戦であっても受け止め損ねたら命の危険があるのは至極当然の話だ。
 それだけに剣術の威力は大きく、同時に人間はひどく脆い。


「忠亮さんはなんと……?」
「何も、何も……教えてはくれませんでした………だけど、ただ一つ。必要なことだったからと、だけ。」

「必要なことだった……か」


 彼は恩師を手にかけた事にどんな必要性を見出したのだろうか。
 分からない、彼が見聞きしたモノの断片だけでは何も分かりはしない……自分は彼の事を何も知らないのだと思い知らされる。

 歯痒さ、いや違うこれは悔しさだ。


「柾さんはその後も、必要であれば守るべき民でさえ見捨てるようになりました。その多くの判断は後により多くの人を活かす選択でしたが………必要であるのならそれが【何者であっても】切り捨てる、そういう人間になってしまった。」

 だから、彼と共にあれば自分も切り捨てられるかもしれない………言葉にせずとも清十郎がそういう疑念を抱いていることが分かった。

「…………」

 言いたいことが沢山あるのに、思考が頭の中で書きまわされて言葉にならない。

「まるで機械のよう、柾さんの心はとうの昔に死んでしまったのかもしれない……それを証明するかのように、柾さんは自分の故郷である四国にBETAを誘き寄せることで帝都への進軍を抑える為に瀬戸内海の大橋群の破壊中止を提言したと聞いています。」

 清十郎の言葉の節々に滲み出る感情の色、それは後悔だった。
 もしかしたら、そうなるのを止められたかもしれない……そんな自責の念が感じ取れた。

「忠亮さんが……俄かには信じられない。」

 半ば呆然と呟く唯依、唯依が見てきた忠亮は表面的にはひねくれているが性根は真っすぐな誠実な人間だった。
 ……あの右半身を損なった忠亮の体を拭いた事もある、あの体は真摯に剣と向き合い己身を愚直なまでに鍛え上げた人間だけが持つ体だった。

 何度皮が捲れたのか、針すら通さない程に硬く厚くなった足の裏と手のひら。
 まるで大樹が大地に張り巡らした根のように張り巡らされた大幹の筋肉。逆に剣を振るうのに不必要な筋肉は限界までそぎ落とされた肉体。

 あれは一朝一夕で身につくようなモノじゃない、間を惜しんで何年も何年も鍛錬に没頭し、その極限で至っ
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