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死者の誘い
4部分:第四章
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っていた。
「特にトスカって名前が」
「そうでしょ」
 エミリアは自分が紹介した店が気に入ってもらえて機嫌をよくしている。
「いいのは雰囲気だけじゃないわよ」
「そうみたいだね。この曲だって・・・・・・んっ!?」
 彼はその曲にハッとした。それはトスカからの曲だった。
 歌っているのはジュゼッペ=ディ=ステーファノか。甘い独特の歌い方だ。
 問題はその歌っている曲だ。それは『星は光りぬ』だった。
 トスカ第三幕で歌われる曲だ。銃殺になることが決まったヒロイントスカの恋人マリオ=カヴァラドゥッシ。彼がこの世に別れを告げるのを悲しむ曲なのだ。死を意識した曲なのだ。
 そう、死だ。そしてトスカもまた死ぬ。彼はそのことに気付いた。
(死・・・・・・!?)
 顔を青くして店の中を見回す。するとカウンターに座っている一人の男に気付いた。
(あれは・・・・・・!)
 その顔を見てギョッとする。あの運転手がそこにいたのだ。漂わせているのは地下鉄での気配だった。今それがつながったのである。
 彼はこちらに顔を見ていた。ジュリアスを見て笑っていた。あのゾッとするような薄気味の悪い、誘う笑みで。グラスを片手に彼を見ていた。その手にあるのはワインだ。血の様に赤いワインだった。
「な・・・・・・」
「どうしたの?」
 ジュリアスの様子が急に変わったのを見てエミリアは怪訝な顔をしていた。
「急に顔を青くさせて」
「いや、あのさ」
 その青い顔を何とか取り繕って彼女に応える。
「どうやらまだ早いみたいだよ」
「そうかしら」
「イタリアではね」
 そう作り話をする。
「まだ飲むような時間じゃなかったよ、御免」
「じゃあここには入らないってこと?」
「いや、後でさ」
 彼は言う。
「後で来ようよ。それより今は」
「どうするの?」
「レストランにでも行かないかい?」
「結局食べるのじゃない」
 同じじゃないのかと言う。


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