ほのぼの瀬戸内
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彼の肩から毛利へ飛び移ろうと突進してくる。
咄嗟に長曾我部の後ろに隠れた為、夢吉は盾になった長曾我部の顔面にぶち当たった。
毛利が長曾我部の腕に隠れたことが意外だったのだろう。
慶次の視線を感じた為、毛利は何事もなかった風を装って長曾我部の後ろから歩み出て咳払いをし、ごまかした。
「夢吉はあんたがお気に入りみたいだな。でも駄目だよ、この兄さんは夢吉のこと好きじゃないからね」
猿が人語を理解するとも思えないが慶次は夢吉にそう諭して自身の猿の鼻を指で擽った。
キキッと陽気な声を立ててその指に纏い付く夢吉をまた肩に乗せて、慶次は長曾我部と毛利の二人に話し掛ける。
「事情は元親から聞いたと思うけど、一晩ここに世話になるよ。明日には出立するから気にしないでくれ」
「なに? 」
まつが厳島を見たいと言うから連れてきたと言う話は聞いたが、彼らを泊めろと言う話は聞いていない。
毛利が下から長曾我部を睨むと、すっかり忘れていたのか長曾我部は頬を掻いてごにょごにょとごまかしていた。
「貴様、何を勝手に」
「いいじゃねえか。石高七十万石の俺様が快く泊めてやったんだぞ。中国一帯治めてる百万石の領地を持つあんたが細けえことをごちゃごちゃ抜かすんじゃねえよ。まったく、ケチくせえったらねえなあ」
「貴様がどうしようと貴様の勝手だが、それを我に押し付けるでないわ! それにこれはケチとかそう言う問題ではない! 」
長曾我部を叱りつけ、彼の背と言わず、腹と言わず打ちつける毛利とのやり取りに、端で見ていた前田慶次は呆れ、どうしたものかと困惑顔を浮かべていた。
「ま、お隣さん同士、仲良くしてるようだし、結構、結構。まつ姉ちゃんとトシに挨拶してくるか」
持ち前の明るさで笑い飛ばすと痴話喧嘩を続ける瀬戸内の二人はそこに置いて浜辺にいる松と利家の方へ歩き出した。
午後に入り、飯の時間になると毛利の屋敷はいつにない騒がしさで賑わった。
気難しい主の館の為、日頃はとても閑静で落ち着いた雰囲気を醸し出している屋敷なのだが、今日は加賀領主利家の妻、まつの手料理が食べられるとあって、少し離れたところに館を構える将まで毛利の屋敷を訪れていた。
「いやあ、以前、松さんの手料理を食べた兵から、利家殿の内裏の手料理は三国一と聞き及んでおり、是非、食してみたいと思っておりました」
「まあ、ホホホ。それは嬉しゅう御言葉に御座います。お粗末な手前では御座いますが、皆様方、どうぞたんとお召し上がりになって下さいませ。毛利殿の兵の皆様もこのまつめが御守り申し上げます」
まつの陽気な笑い声に館も暖かい空気に包まれる。
面白くないのは兵を懐柔された毛利である。
「何なのだ、あの女」
「あん? 」
毛利の呟き
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