胡蝶の夢
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我部の腕が伸びて毛利の肩に戻してやった。
ついでとばかりに彼の身体を自分の方へと引き寄せ、肩に羽織った着物ごと抱き締める。
「離せ」
「言うだけ無駄だ。俺が酔ってる時にのこのこ近付くあんたが悪い」
そのまま屈み、毛利の目を覗き込むと長曾我部は彼の顎を掴んで肉の薄い唇に口付けた。
渇いてかさついた唇が毛利の口先に触れる。
ガサガサしていてけして感触は良くない筈なのに、背中に震えが走った。
「止めろ」
「あんたの止めろと離せはいつも形だけなんだよ。たまにゃ別の言葉で誘ってくれねえかね」
「長曾我部……っ」
荒れた唇とは裏腹に、長曾我部の口の中は温かく湿っていて滑らかだった。
吐き出す呼吸ごと飲み込まれ、蠢く舌が中を弄る。
互いに身体が冷えていたが、密着した箇所から熱が生まれ、二人の間の吐息も温まった。
「いい匂いだ。あんたを思い出す時、いつもこの匂いが恋しくなる」
会う度同じことを言ってるのはどちらだと思ったが、毛利の髪に鼻をすり寄せ、犬のように匂いを嗅ぐ長曾我部を見るのも悪くはない。
延ばし放題で手入れをしていない髪といい、この男は本当に大きくて人懐っこい陽気な犬そのものだ。
「どうだ。このまま俺と一緒に土佐に帰るってのは」
「貴様がそうしたいのならば」
「ほう。珍しい」
貴様を屠り、四国を中国へ組み込む為。
それを口にするのはさすがに不粋だから代わりに今一度口付けを交わそうと目線で長曾我部を誘った。
「貴様がここに残ると言う手もある」
「魅力的なお誘いだが、かわいい子分どもよりあんたが一番大事な訳じゃない。残念だがあんたの身柄はここへ置いて、俺が会いたくなった時にまた海を渡って訪れるとしよう」
毛利の髪を太い指で梳き、頬を撫で、愛しそうに額に口付ける。
こんな風に愛情を込めて触れられると、どう反応を返して良いのか分からない。
まだ悪態を吐かれ、喧嘩を売られている方が遥かにマシだ。
「理解しがたい男だ」
「あんただって俺を微塵も理解しちゃいねえだろ。理屈は抜きでいいんだよ。あんたを憎んでいるが、心底惚れてもいる。それが分かってるから俺は細かいことは気にしない」
再び口付け、毛利の頬の肉を摘まむと、振り解かれる前に長曾我部は彼の身体を離した。
このまま抱き合うのかと思っていた毛利は拍子抜けになり、目の前の男の顔を驚いて見上げる。
「じゃあ、俺はもう行くぜ」
「何しに来た」
「あんたの顔を見にって言っただろ。顔が見られたから今宵はもう満足だ」
「………」
「正直言うと、少し身体を冷やし過ぎた。そろそろ眠いし、腹も減ったんだよ。言わせんな」
「この、うつけ」
離れて行く身体をとっさに掴んで引き止めた。
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