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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第126話 犬神
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に跳び出す黒い人影。

 上空で体勢すら整える事の出来ない襲撃者。完全に合一した女神をバックに足掻く姿は、まるで深海で空気を求めてもがく者の如き。少なくとも空を飛ぶ、と言う能力を持つ者とは思えない動きなのは間違いない。
 そして――
 足場にした高き枝を強く蹴り、十数メートルはあろうと言う距離を一瞬でゼロに。その時には光り輝く剣を手にしていた俺が――

 しかし、流石に相手もまったくの無能と言う訳ではなかった。人質……おそらく生け贄とする為に運んでいたはずのハルヒを、自らと俺の間に割り込ませる。
 生ける盾。但し、これは蘇生の術を行使出来る俺には無意味な行動。更に言うと、単に俺を怒らせる結果となる極めてリスクの高い選択肢。
 但し――
 ここで僅かな逡巡。ハルヒごと相手を両断した時に発生するリスクと、この場は彼女を奪い返すのみに留め、その後にこの素人臭い襲撃者を叩きのめすリスクの両天秤。
 しかし、それも刹那の間。そう、答えは簡単。クトゥルフの邪神の苗床から完全に脱し切れていない彼女の生命を一時的にも消滅させる方が、敵を生き残らせるよりリスクが高いと判断。

 その結果。ハルヒに掠りさえしないように振るわれた白刃が得た戦果が、ヤツの左腕と、そして、無傷のまま好き勝手な事をホザキ続ける元気な元人質、と言う事。

「……と言うか、ハルヒさんよ」

 上昇した時の百分の一にも満たない速度でゆっくりと地上に向かって下降する俺。左腕を斬り跳ばした相手に関しては、大地に叩きつけられ、バウンドして木の陰へと入って仕舞った。
 通常の人間ならば死亡している可能性が大なのだが、おそらく無傷に等しいでしょう。
 ……あれだけ大量の犬神を使役して、その犬神を倒されたとしても無傷に見えた相手が、高々二十メートルほどの高さから放り出されたぐらいで死亡するとは思えませんから。

「なによ?」

 未だ来るのが遅いとか、明日はあんたのオゴリよ、とか好き勝手な事をほざいていたハルヒが俺を睨みつける。
 絡む視線。ふたりの身体の距離はゼロ。本来なら多少、甘酸っぱい感情に支配されたとしても不思議ではないシチュエーション。
 しかし、ハルヒの表情が――
 ただ、口では文句を言っていたけど、腕の方はしっかりと俺の首に回していたので……。
 要はどう言う態度で居たら良いのか分からないから、取り敢えず悪態を吐く事に決めた。……と言う程度の事なのでしょう。

 何故か、妙な睨めっこ状態となって仕舞った俺とハルヒ。但し、俺の方はやや笑みの混じった呆れ顔。
 対して、ハルヒの方は相変わらず怒ったふり。

 しかし、終に我慢が出来なくなったのか、プイっと視線を逸らして仕舞うハルヒ。本人は気付かれていない、と思い込んで居るのでしょうが、その仕草は明ら
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