第6章 流されて異界
第126話 犬神
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しを行わず、弓月さんの従姉が死亡したとしても……だ。
「行って」
俺の僅かな迷い。その僅かな迷いに気付いたのか、俺の背中に掛けられる小さな声。いや、間違いなく俺の迷いに気付いたが故のこの言葉。
表情は無。口数も異常に少なく、普通に考えるととてもおとなしい少女のように見える彼女が、実は非常に気が強く、更に頑固である事は、他ならぬ俺が良く知っている。
無造作に見える仕草で右腕を振る。たったそれだけの動きで跳びかかる猛獣に断末魔の悲鳴を上げさせながら、軽く右後方に視線を送る俺。
其処には――
縁側。誰が見てもただ静かに佇んで居るようにしか見えない彼女の周囲に迫る首だけの犬。その先頭の一群が何の前触れもなく宙を舞い!
しかし! 何もなかったはずの宙空にて阻まれる突進。その獰猛な牙も、何もない空間を空しく噛むのみ。
そして次の瞬間、ただ無為に何もない空間に食らいつくだけであった犬神の一群が、蒼白き炎によってすべて焼き尽くされて仕舞った。
「ここは問題ない」
不可視の壁にこびりつく微かな残滓が風に散じた後に、俺を真っ直ぐに見つめた彼女がそう言う。俺の迷いの元凶。彼女にこの場を完全に任せる事への不安が――
いや!
小さく首肯く俺。今、危険に晒されているのは有希ではなく、ハルヒの方。これ以上、ここでグズグズして有希を幻滅させる必要はない。
人間が走るのよりは速い移動で遠ざかって行くハルヒの気配。但し、その移動は直線的でどう考えても地上を走って居るような気配はない。
確かに瞬間移動を繰り返せば、間に多少の障害物が有っても問題はないでしょう。しかし、実際に目で見えない場所への転移は非常に危険――例えば、その転移した場所に樹木があれば、人体と樹木の融合した不気味なオブジェが出来上がる等の危険を伴うので、初めから準備をしていなければ行う可能性はゼロ。
そして何より、ハルヒとして感じている気配が地上よりもやや下。おそらく、地下数メートル程の場所から感じているので……。
この移動方法は、おそらく土遁の術か地行術の類。
そう判断した瞬間、大地を蹴り宙空にて導引を結び、口訣を唱える。そして、日本風の塀の上に降り立った時には――
「オマエは有希と弓月さんを護れ! 俺はハルヒを追う!」
後方に向かって複数の呪符をばら撒きながら、自らのコピー。飛霊に対してそう命令を行う俺。
その言葉が完全に終わる直前。立て続けに起きる爆発を背に受け瞬間移動。俺の完全なコピーである飛霊からの返事など待つ必要もないし、更に言うと、背後から跳びかかろうとして居たはずの犬神の末路などに然したる感慨も涌く事はない。
最初の一跳びで見える範囲内で一番高い木の枝に。次に、其処から見える木の枝へと瞬間移動を繰り
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