第6章 流されて異界
第126話 犬神
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障子越しに差し込んで来る蒼い光輝が現在の天候を示し、遠くから聞こえて来る犬の遠吠えが、今宵が風のない静かな夜である事を教えてくれた。
室内には古い木と真新しい畳の香りを含んだ闇が蟠り……。
いや、だからと言って何も見えない訳ではない。
桟に区切られた天井板と土壁に守られた広くも狭くもない部屋。淡い蒼の光に沈む旧家の和室には、それに相応しい日本式の家具に小物の数々。しかし、その中に何故か少し若い女性の臭いを感じる。
ここまではごく一般的な……かなり高級な感じのする日本家屋の一室。
そして、ここからが普通の部屋とは違う。
左右に張られた注連縄と、それぞれの先に存在する榊の枝。
部屋の四隅には盛り塩。
室内にこれだけの準備をした上に、建物や周囲にも結界を施してある。
これをどうにか出来る相手は早々いない……とは思うのですが……。
そう考えた瞬間、部屋の中心に敷かれた布団が微かに動いた。おそらく普段と違う状況に、流石の彼女も少し寝苦しかったのかも知れない。
現在、十二月二十一日夜中の三時すぎ。この部屋は、弓月さんの従姉で、この温泉旅館の若女将……女将見習いの女性の部屋。
刹那――
また犬の遠吠えが聞こえた。
その瞬間、俺の腕の中に存在する彼女が僅かに身じろぎを行った。微かな洗い髪の香が鼻腔をくすぐり、普段よりもずっと密着させた身体が、彼女の小さな心の動きすらも伝えて来る。
それは、彼女の疑問を……。
昨夜、この付近の土地神を召喚しようとして失敗した後、弓月さんに頼み込んで訪れた彼女の従姉の部屋。其処に漂っていた微かな異臭。いや、これを感じられるのはかなり呪法に詳しい人間で、更に言うと見鬼の才に恵まれた人間でなければ無理であっただろう。
それぐらい微かな異――獣臭。
これは多分、呪いの痕跡。
流石にそんな部屋で弓月さんの従姉を眠らせる訳にも行かない。
確かに、今俺が持って居る情報だけでどのような呪いが実行されているのかを特定するのは不可能でしょう。簡単に思い付くだけでも、呪いを実行して居る相手に、弓月さんの従姉の真名や忌み名を知られている。彼女が長い間身に付けて居た品物や髪の毛などを利用した呪いを行使されている、等々の方法が有り、その方法を完全に解明して、然る後に対策を施す事は現状では無理。但し、それでも現実に何らかの呪術が為されている痕跡が有る以上、この部屋に呪いを受ける人間を留め置くのは非常に危険だと言わざるを得ない。
先ず、何が行われて居るのかを知る。その為にも、この部屋にその呪いを掛けられて居る人物を置くのは得策ではない。
……と言う説明。一般人相手では信用させるのも難しい説明をあっさり受け入れて貰い――
【何かが近
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