本編 第二部
「神になれなかった哀れな存在」
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その箱の道はどんどんと続いていました。今や果てしない巨大な回廊が無限につづき、山を3つ越えるのに三時間とかからない賢治がもう一ヶ月以上その中を友恵と伊佐のお母さんと一緒にその道を走り続けていました。走っては疲れて眠りに落ち、起きて活力がわけば走る。その繰り返しです。もう何ヶ月も太陽を見てないし新鮮な空気にも触れていません。そして自然とそれらを渇望するようになり、しだいに闇がもたらす恐怖が息苦しさとなって襲ってきました。伊佐のお母さんはこういう時の過ごし方を教えてくれました。まず自分たちの衣服を少し割いて、燃えるものを用意しますそしてそれを伊佐のお母さんもっていた火打ち石で上手に火をつけます。するとすこしですがこの闇の中で明かりが灯ります。そうやってこの闇の中で自分以外の誰かを確かめて口に手で袋を作って息をしているのを確かめるのです。これは過呼吸の人がよくやる方法です。
しかし伊佐のお母さん本人はすこしも狼狽している様子がありません。なんでも敵軍に囲まれて何ヶ月も洞窟の中を行ったり来たりして生活し洞窟を抜けて包囲網から抜け出しそのまま、隠れ潜んで前線から退却したことがあるとか。
まったくこのお母さんは何者なのかと思うほどです。
そんなことをやっているうちに後ろの方から足音がします。それがどんどん近づいてくるのです。追手かと思うとお母さんが制しました。
「あなた、やっと追いついたのね」
「ああ、明かりを見ておまえだと確信した」
「伊佐!」
「賢治!」
「豊村さん!」
「おお、友恵」
「よかったみんないますね」
「だがこう暗いのが続くとやばいな」伊佐のお父さんがいう。
「ええ、少しよくないですね」
「なんやねん、みな、わてがいることホンマに忘れておるようやな」
「あれ?この声は、島?」
「そうや、みんなワテ一人残して行ってしまうんだから、ま、わしはみんながどこへいようといつでも駆けつけられるからいいんやが」
「おまえ、どうやってついてきたんだ。そういえば本当に忘れてたぞ、おまえのこと」
「ふん、ええんよ、わてもみんなの認識の外におったからな」
「認識の外?」
「もうそろそろええやろ教えたる、わてがどうしてみんなの記憶から消えていたのかは実はわいが人間やないからや、って空母のメインデッキでも話したがな。まあ、神様っちゅうのはあまり自分からは名乗らんさかいにこの賢治のボケが大きな勘違いしおったからにいまだにわいが神様やて思うとらん奴もいるだろ」
「おまえが神様?あのなあどこに島 高次なんてボケの聞いた神様がいるんだ」
「あんな、賢ちゃん。ほんまに怒るで。しゃあないこれでも神様じゃないというか?とう!」
ボン!煙の中から立ち現れたのは身の丈、六十尺はある大狐、それが細い目でこちらをあの島の笑い顔そっくりでニコっとした。
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