巻ノ十五 堺の町その五
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「無闇な殺生はせぬに限るしな」
「それでか」
「水に漬けてじゃ」
そうしてすっぽんを離させたというのだ。
「そうしたのじゃ」
「成程な」
「それまで離さぬ、とかくしつこい」
それがすっぽんだというのだ。
「そのことには気をつけねば」
「美味いがのう」
根津はその味を素直に楽しんでいてそのうえで言った。
「それでもか」
「そうなのじゃ」
海野は根津にも答えた。
「そこは用心じゃ」
「知っておったが用心しよう」
「痛いしのう」
「そのことはわかったが」
清海が言うには。
「これを食うと精がつくか」
「左様、大層力がつく」
筧がその清海に話す。
「身体にもよい」
「味がよいだけでなくじゃな」
「そうじゃ、もっとも御主は力が有り余っておるからな」
だからというのだ。
「暴れるでないぞ」
「ははは、安心せよ」
笑ってだ、清海は筧に返した。
「そんなことはせぬわ」
「まことにそうか」
「うむ、悪者と会わぬ限りはな」
そうしたことはしないとだ、清海は筧に約束した。
「それはせぬ」
「ふん、その悪者はわしが一人で成敗してやるわ」
由利は清海の話を聞いて笑って言った、鍋のすっぽんの肉だけでなく杯の中にある濁り酒も楽しんでいる。
「十人や二十人なら平気じゃ」
「小さいのう、そこで千人と言わぬのか」
「一騎当千か」
「そう言わぬか」
「なら言おうか、わしの鎖鎌と風の術ならばな」
それこそとだ、猿飛に返す。
「それ位はどうということはない」
「わしは一騎当万じゃ」
猿飛は自分の強さをこう言ってみせた。
「わし一人で一万人は相手に出来るぞ」
「ほう、そう言うか」
「そうじゃ、それ位は出来る」
こう豪語するのだった、猿飛も飲みつつ話す。
その猿飛の話を聞いてだ、霧隠はこんなことを言った。
「確かに我等は強い、しかし流石にな」
「一万を相手にしますと」
「頭が必要じゃ」
それを使わねばとだ、伊佐に答えた。
「それがなくてはな」
「はい、一万を相手には出来ませぬな」
「我等十一人なら一万でも勝てる」
「我等の武勇と術を使えば」
「しかしそのまま戦っても勝てぬ」
それではというのだ。
「頭を使わなくてはな」
「では霧隠殿の冴えと筧殿の学識」
「それ以上に殿の軍略があれば」
霧隠は幸村を見た、ここで。
そしてだ、今度は幸村に言うのだった。見れば幸村は焼酎を飲みつつそのうえで鍋のすっぽんを楽しんでいる。
「我等も一万の軍勢に勝てまする」
「拙者がいれば」
「はい」
その時はというのだ。
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