2部分:第二章
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第二章
「そうか。主の正体がわかったぞ」
「何と」
「主は椿だな」
彼はそう声に対して問うのであった。
「違うか。椿ではないのか」
「何故そう思うか」
「では何故最初に椿木を切るなと言ったのか」
彼が問うたのはそこであった。
「それは主が椿である何よりの証拠」
「くっ」
「ほれ、見るがよい」
声が詰まったところをさらに指摘してみせた。
「今言葉を詰まらせた。それが何よりの証拠だ」
「我が椿であるということがか」
「左様。正体がわかればどうということはない」
彼は怖気なぞ全くない声で椿に告げるのであった。
「わかれば大人しくするのだよいな」
「見破られたからには仕方がない」
椿の声は観念した声を出してきた。
「ならば。今後は大人しくしておこう」
「それがいい。主の正体がわかった以上今度は村人が黙ってはおらぬぞ」
化け物は正体がわからぬからこそ化け物なのだ。ところが正体がわかってしまえば。それで終わりだ。それは椿の方でもわかっていたのだ。
「よいな。それでは」
「うむ」
行間の言葉に応えて声は消えた。ついでにもう光も出ることはなかった。行間はそれを確かめてからまずは安堵したのであった。
しかしすぐに。別のことも考えだした。
「これで終わりであればよいがな」
そうは思ったが同時にこれで終わりだとも思わなかった。すると今度は門のところが騒がしくなった。
「頼もう」
「頼もうぞ」
四人程の屈強な男の声がする。行間はそれを聞いてやはり、と思ったがまずはその感情は言葉には出さないことにした。こう門のところに返すだけであった。
「入られよ」
「部屋はどちらか」
「茶室がある」
こう述べるのであった。
「そこで御会いしよう。それでよいか」
「うむ、わかった」
「それではな」
男の声達は行間のその言葉を受けた。そうして声を消すと今度は気配が寺の中に入るのを感じた。そのまま上がり込んで本当に茶室に向かっているのがわかる。どうやらこの寺の中は完全にわかっているようであった。行間はその足音を聞きながらおそらくこれだ、と確信した。しかしその心もまた隠して自身も茶室に入る。当時茶室はできたばかりの時代であったがこの寺の茶室は見事なものであったのだ。
その茶室に入るともう既に四人の男達が待っていた。見れば鎧に身を包み腰には二本の刀を差している屈強な武者達であった。
ところがその顔が違っていた。一人は狐、一人は狸、一人は鶏、そして最後の一人は鯉の顔をしている。一目見ただけで彼等が化け物であるのがわかる。彼等は狭いが見事な茶室の中で既に油の灯りを点けて行間を待っていたのであった。並んで正座をしている。
「遅いぞ」
狐の頭の男が言ってきた。
「我等はもう用意ができている」
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