1部分:第一章
[2/3]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
顔を見せて止めてきた。
「あまりにも。危険では」
「何、化け物を恐れていては諸国を行脚することはできません」
一笑してこう言ってみせてきた。
「そうではありませんか」
「お坊様がそう仰るのなら」
「宜しいですね」
「いえ、少しお待ち下さい」
彼はこう告げて一旦行間を止めるのであった。
「その前に話し合ってみます」
「村でですか」
「そうです。確かにそれは有り難き申し出です」
正直彼等にとってもその寺が空いたままであるというのは都合が悪いらしい。その証拠に今の村人の顔には不安だけでなく期待も浮かんでいた。その二色がそれぞれ混ざり合って一つの色になったというような、そうした複雑な顔を行間に見せているのである。
「ですが。それでも」
「化け物のことでですね」
「残念ですがその通りです」
理由は他になかった。そもそも化け物がいなければ既に誰か入っている。それは行間ももうわかっていることではあったが。
「ですから。暫しお待ちを」
「わかりました。それでは」
行間は村人の家に暫し泊めてもらい村人達はその間彼に寺に入ってもらうか話をしたのであった。彼が村に入ったその日の夜遅くのことだった。質素な村人の家の中で静かに寝入っていた彼を起こす声が聞こえてきたのである。
「もし」
「はい」
行間はそれに応えて身を起こした。すると彼の枕元に数人の村人がいたのであった。彼等は起き上がった行間の顔を暗がりの中で見ていた。
「話が終わりました」
「左様で。それで」
「是非入って下さい」
結論はまずは行間にとってはいいものであった。
「あのような寺ですが宜しければ」
「有り難き御言葉」
村人達に対して礼を述べる。しかし話はそれで終わりではなかった。
「ただ。御願いがあるのですが」
「化け物のことですか」
「左様です」
彼等は行間に対して答えた。
「その化け物さえどうにかして頂ければ」
「喜んで」
「何、お任せ下さい」
行間は彼等の言葉を受けてもにこやかな笑みを浮かべていた。
「すぐに終わります、その様なことでしたら」
「化け物でもですか」
「鬼や天狗であっても」
当時最も恐れられていたものだ。
「恐れることはありません。拙僧にとっては」
「そこまで仰るのですか」
「はい。あの寺に法灯を再び灯してみせましょう」
こうまで言うのだった。
「ですから。お任せ下さい」
「そこまで仰るのでしたら」
「明日から。是非」
「ええ。それでは」
こうしておおよその話は決まった。行間はその寺に入った。見れば中も奇麗に掃除されておりまるで既に誰かが住んでいるようである。廊下も庭も雪隠も何処も奇麗なものであり今すぐここで暮らせる程であった。とりわけ庭にある椿の木は見事なものであり行間も気に
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ