2部分:第二章
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第二章
「それはあるな」
「特に火事と喧嘩はな」
「そうよ。俺はどっちも全然怖くはねえぜ」
熊はそう言って今度は不敵どころか向かうところ敵なしと言わんばかりの笑みを浮かべてきた。
「特に喧嘩じゃな」
腕っぷしを見せてくる。大工の仕事のせいかかなりしっかりしている。
「こっちでも負けた覚えはないぜ、ガキの頃からな」
「自信たっぷりだね」
「まあな。刀持ったお侍様はともなくな」
「ははは、それはどうしようもねえだろ」
「あの人達は住んでる世界が違うさ」
「まあな。それは置いておいてだ」
一呼吸置いて鉄火巻を口の中に入れる。それを飲み込んでから酒を一杯。博打での基本的な飲み食いであった。その食べ方飲み方にも何処か粋を思わせるのが江戸っ子の流儀である。
「怖いものだよな」
その話に戻った。
「ああ」
「おめえ等何かあるか?怖いものがよ」
そう仲間達に対して尋ねてきた。酔った調子からであおるか言葉が少し砕けてきていた。
「そうだなあ」
「俺だと」
仲間達はそれを受けて話しはじめた。車座になり、その周りが蝋燭の灯りだけなので何処か不気味で怪談をしているような雰囲気である。仕切り役のその筋の者は二人でのんびりと酒を酌み交わしている。その中での話であった。
「あれだな。怪談だ」
そのうちの一人が言った。
「俺はあれだけは苦手でなあ」
「何だよ、そんなものが怖いのかよ」
熊はそれを聞いてその仲間に対して笑って述べた。
「落語とか歌舞伎とかのあんなもん。怖くとも何ともねえぜ」
「そりゃあんたはそうだろうけれどな」
彼は熊に対して言葉を返した。
「俺はな」
不敵な笑みはそのままだ。それがまたやけに似合っている。
「幽霊が出ても何ともねえぜ」
「じゃあ化け物もか」
「化け物が怖くて江戸にいられるかよ」
そういう話の多い街である。本所七不思議という話もある。他にも色々な話があるのが江戸なのである。それだけ大きな街で文化的に繁栄しているという証拠でもある。
「違うか?」
「違うも何もよ」
仲間達はそれに対して答える。
「別に信じてないとかそういうのはないのか」
「いるとかいないとかはどうでもいいんだ」
やはり剛毅な言葉であった。
「目の前に出ても怖くはない。それだけだ」
「そうかい」
「それでだ」
話を続けさせてきた。
「他に何か怖いものはあるか?」
「そうだなあ」
別の仲間が酒を飲みながら述べた。
「俺は地震だ」
「地震か」
「ああ、あれが一番怖いな」
杯を置いてまた述べた。
「ガキの頃にえらい地震に遭ってな。それからだ」
「そんなに怖いのか」
「地震になったら一目散に逃げちまう」
こうまで言う。
「あれだけは勘弁してもらいてえな」
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