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怖いもの
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第一章

                   怖いもの
 何時でも何処でも博打打ちというものは存在する。金をかけて何を楽しむのかはその博打打ちそれぞれだがそれで女房を泣かせる男が多いのも何時の世も同じである。
 とりわけ江戸時代はそんな男がそこいらにゴロゴロした。とりわけ上州はかかあ天下とからっ風という言葉まであった。これは女房が絹で手に入れた金を亭主が博打ですってそれで家を叩き出された結果の言葉である。上州だけでなく江戸でもまあ同じようなものだった。
 ここでもそうだった。長屋の側の神社の中で夜遅く男達が集まって花札をやっていた。場所を提供しているのはこの神社の神主で仕切っているのはその筋の者である。
 この時代博打と言えば寺か神社、京都だとそこに公家の家まで加わっていた。寺等は奉行所とはまた管轄が違う為賭場を開くには都合がよかったのである。その上前はきっちりと寺や神社に入るのだ。ご開帳という言葉は境内等で一応はこっそりと行われたからできた言葉である。この神社でもそれは同じであった。
 暗い境内に蝋燭で灯りがともり、その中で男達が車座になって花札に興じていた。酒やこうした場所で食べられる鉄火巻きも健在であった。
「ちぇっ、また負けたよ」
 その中で中年の男が札を前に放り出して苦い顔を作っていた。
「今日はついてねえぜ」
「じゃあ熊さん止めるかい」
「ついてないならよ」
 それを聞いた相手の男達がこう彼に声をかけてきた。だがその男熊はそれには首を横に振った。熊というだけあってかその腕からは濃い毛が見える。髭は剃られてはいるがその後が青々としている。如何にもといった感じの大柄で豪快そうな男であった。
「おい、馬鹿言うなよ」
 そう言ってまた札を手に取る。
「負けた分は取り返す。それが俺の流儀なんだよ」
「じゃあまだやるんだな」
「当然だろ」
 目を彼等に向けて言う。
「勝つまではよ。江戸っ子だからな」
「江戸っ子ってそんなんだったか?」
 それを聞いた仲間の一人がそれを聞いて呟く。
「違ったと思うけれどよ」
「俺の頭の中じゃそうなんだよ」
 熊はその仲間に対して言い返した。同時に不敵な笑みを浮かべる。
「ほら」
 そして札を見せる。今度は彼の勝ちであった。
「これで負けた分は取り返したな」
「相変わらず強いね」
 別の仲間がそれを見て苦笑いを浮かべて述べた。見れば今回は彼の一人勝ちであった。
「博打にかけちゃ」
「ああ、これだけは何処のどいつにも負けねえよ」
 彼はその不敵な笑みのままそう述べた。
「あと大工の腕前もな」
「いいね、その言葉」
「粋だねえ」
「だから言っただろ、江戸っ子だって」
 彼はまたそれを言った。どうやら江戸っ子であるというのが彼の誇りであるようだ。
「博打
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