3話 余興
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難しくなるのだ。それを踏まえたうえで、ひと月程度の訓練しか受けていない新兵を率い、期日通りに辿り着けるのだろうか。切実な、疑問であった。
だからこそ、エルミナは考え続ける。自分に同じ事ができるだろうか、と。
「……本当に新兵のみを伴って来たと言うのならば、見事と言うしかありませんね」
絞り出すように呟いた。結果だけ見れば、見事としか言えないものである。おおよそ、新兵の動きとは思えないのである。だからこそ、勘ぐってしまう。本当に騎馬隊の力で来たのだろうか、と。ユイン・シルヴェストは先の戦いで自身の左腕を失っており、また全身に深い傷を負っていたのだ。その傷もかなり回復したようだが、全快する前に部隊の指揮を執り始めたと言う。失った左手は、主であるギュランドロスが義手を用意することで補う事が出来たようだが、それでも日常生活に支障をきたす事が多いだろうと予想できた。エルミナは自分を同じ立場に置き換えて考えてみる。
本当にそんな状態でこれほどまでの成果を上げる事が可能なのだろうか?
試すつもりで、無理な日程を通告した。別に遅れてこようと、責めるつもりは無かった。初めから無理な日程を組んだのである。7日につく事が出来たのならば、むしろ褒める心算ですらあった。新兵が通常の騎馬隊の速度で進む事ができたのなら十分すぎる成果と言えたのである。悪いのは自分であるからこそ、後に誠意をこめて謝罪するつもりで、その日程を下した。
そんなエルミナの思惑の上をいき、ユインはそれ以上の成果を出してきた。それも、見事だと感嘆すら覚えるほどの。だからこそ、どうしても勘ぐってしまう。何か、不正を行ったのではないだろうか、と。
「はぁ……。私は、自分がこんなにも嫌な女だとは思いませんでした……」
エルミナはしばらく考え続けたところで、溜息を吐いた。解っている事はユイン・シルヴェストの部隊が類を見ない速さで辿り着いたと言う事であり、それ以上でも以下でもなかった。それなのにエルミナは相手がメルキアの降将と言うだけで、悪い方にばかり邪推してしまっていた。幾らメルキアを認める事が出来ないとは言え、仕事に私情を挟んででしまった自分が嫌になったのだ。
「ん? 何か言ったか、エルミナ?」
「どうかしたの、エル姉?」
「いえ、何でもありません」
そんなエルミナの呟きに、言い合っていた二人が不思議そうな顔をする。喧嘩しててもどこか息の合う二人に、エルミナは苦笑を漏らした。
「実際目にすれば、解る事です」
合同訓練が始まれば、実力かそうで無いかは嫌でも解る事なのである。そう呟き、エルミナは仕事に戻った。
「よう、ユイン。かなり早い到着だな。正直驚いたぜ」
「それは良かった。此方としても、趣向を凝らした甲斐があり
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