三十六話:デートと日常
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因みにまだ自分が俺と間接キスをしたことは分かっていないようだ。
気づいたら気づいたらで今度は気絶しかねないので言わないが。
「間接キス…間接キス……うきゅ〜」
「……現実に戻ってこられるか、こいつは?」
少し心配になってきた俺だった。
「あかん……今日のリヒターはホンマにあかん。なんやあのイケメン。普段と違いすぎるやろ」
あの後何とか再起動に成功したジークは店から出た後に体勢を立て直すためにトイレに逃げ込んでいた。
ジークとてデートのつもりで臨んでいたが相手が余りにも積極的すぎた。
あのままでは心臓がもたなかったというのが本人談である。
「でもなんで急にあんな風になったんやろ? やっぱからかっとるんかな。やけどいつもより優しい気もするし……分からんわ」
元来考えるのがそこまで得意ではない彼女はそこで思考をやめる。
だがそれは真理でもある。
分からないものはいくら考えたところで答えは出ないのだから。
もっとも、そこまで複雑に考える前に彼女は思考を放棄しているのだが。
「まあ、ええわ。私にとってはええこと尽くめやし。ちょっと恥ずかしいけど今日はデートなんや。楽しむでー!」
「がんばってね、お嬢ちゃん。おばさん応援してるわよ」
「って、うわっ!」
なお、ジークがブツブツと呟いていたのは鏡の前なのでバッチリと他の利用者に聞かれていた。
相手が悪ければ通報ものだったかもしれないが幸運(?)なことに年配の夫人だったために暖かな目で見送られるだけで済んだ。
但し、ジークの心には深刻なダメージが残ったのだが。
「し、失礼しましたー!」
「あらあら、若いっていいわね」
逃げるように、出て行ったジークだったがさっきの出来事のせいで顔を合わせ辛い。
仕方がないので顔の火照りが冷めるまで待っていようと考えた時だった。
「誰か! ひったくりを捕まえてください!」
女性の悲鳴にも似た声を聞き瞬時にそちらを向く。
すると顔を隠した男らしき人物がバックを片手に逃げ出していた。
辺りには人は見当たらない。しかし、ジークは間違いなく一人は近くにいることを知っている。
そう、リヒターだ。
「リヒター!」
「任せろ!」
犯人の行く手を遮るように立つリヒターにジークは僅かばかりの安堵を覚える。
犯人はどうやら魔導士ではないらしく魔法を使ってはこない。
これならば大丈夫だろうとジークは思ってしまった。魔法が使えるが故に。
魔法が使えるが故に気づかぬうちに使えぬ人間を下に見てしまっていたのだ。
そしてすぐに気づかされる。人は―――魔法などなくとも殺せるという事実に。
「ナイフ!? 持っていたのか!」
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