1部分:第一章
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「だが。まあよい」
しかし彼等はもう恐れてはいなかった。何故ならもう彼を穴に入れてしまいそこから土をかけだしていたからである。もう後は埋めてしまうだけであった。
「御主はこのまま埋めてやるからな」
「人柱としてな」
「人柱だと」
縛られ完全に身動きができなくなりその上から土をかけられている中でそれを聞いた。それを聞いて顔を強張らさざるを得なかった。
「拙僧を。どうして」
「知れたこと。過去の罪よ」
土を入れる者のうちの一人が彼に告げた。
「それ以外に何があるか」
「わかったらそのまま死ぬがいい」
「馬鹿な、どうして」
改心し罪を償った筈だ。少なくとも彼はこう思っていた。
「それで拙僧を」
「罪が消えるものか」
「戯言を申せ」
これこそが彼等の言葉であった。
「拙僧は罪を。それは」
「忘れるものか」
「そうだ」
彼等はそう主張する彼に対して。冷たく告げたのだった。そこには一切の寛容も妥協もなかった。そこまで至った極端な言葉であったのだった。心のままの言葉だった。
「誰が貴様なぞ」
「そんなに罪を償ったというのなら」
そして出した言葉は。恐ろしい惨事の前触れとなるものだった。
「ここで人柱になれ」
「そうして死ね。潔くな」
「・・・・・・そうか」
為五郎もその言葉を聞いて遂に認めた。己がどうしても許されないことを。それは諦めと共にそれ以上に憎しみを浮かび上がらせるものであった。
「わかった。もうよい」
「わかったか。ならよい」
「ならば。今ここで死ぬのだな」
「拙僧は。最早罪を償うことはせぬ」
憎しみに満ちた目で彼等を見上げて告げる。その彼等の上にある漆黒の夜空には月が浮かんでいた。赤い、血の色そのままの月であった。
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