第十六話 交わる剣と身体
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瞬間の判断が命を左右する戦場にて鍛え上げられた反射行動が仇となり、なにもない空間を、実際にあったのなら『二本目の剣』が来たであろう場所をその剣を弾くため、水平に薙いでしまった。
がらんどうとなった体を、キリトが見逃すハズもなく、一気にアスナのふところへと踏み込んだ。
回避行動も防御行動も取れない。ましてや攻撃すらできない速さで間合いを詰めたキリト。
皆がキリトの勝ちだと、確信したその時、思いがけない事態が起きた。
「……なんのマネ?」
「できれば降参してくれないか?女の子を斬るのは趣味じゃないんだ」
アスナがレイピアを動かせないかつ少しでも動いたら即座に斬れる絶妙の位置でキリトは己の剣先を止めていたのだ。
そのキザったらしい発言と行動に、観客から凄まじい歓声と野次が飛び交った。
「……分かったわ。降参よ」
アスナは手からレイピアを離し、不満そうに両手を挙げた。
アスナが降参の意を示したことで、決闘のウィナー表示が浮かび上がり、またしても歓声が上がった。
「ありがとう」
「…………ふんっ」
キリトが微笑みかけると、不機嫌そうにはなを鳴らしたアスナは踵を返し、その場をはなれていった。
その態度にキリトは苦笑をこぼす。
皆に背を向けて歩いていくアスナを止める者はおらず、賭けでもやっていたのか悔しがる連中もいた。
遠く離れていくアスナの背を、リュウヤはじっと見つめる。
先ほどの決闘、たった数秒しか見ていないが、どんな闘いをしていたのかはキリトとアスナの顔を見ればすぐに分かった。
二人とも、とても楽しそうに剣をぶつけ合っていたのだろう。なにせ攻略の鬼とまで言われたあのアスナが笑っていたのだから。
キリトは言わずもがな。あの戦闘狂が好敵手を見つけたかのように歓喜していたのだ。
だがアスナに関しては、闘うこと以前の問題もあるようだ。
去り際にチラリと見えた彼女の表情。
それを捉えたリュウヤは思わず口の端を歪めてしまった。
「ははっ、やっぱ女の子だなぁ」
空を仰ぎ、リュウヤは愉快そうに笑った。
問題のフィールドボス討伐は見事一人の犠牲者も出さずに成功を収めた。
キリト側につくプレイヤーたちが出した提案が予想以上に効果を発揮し、キリトが反対したアスナの案は使われる事はなかった。
フィールドボス討伐の終わり、報酬分配で盛り上がる攻略組の周囲にはしかし、リュウヤの姿はどこにもなかった。
フィールドボス討伐ののち、順調に進んだ迷宮攻略も終わり、無事五十六層を突破した翌日のこと。
リュウヤは五十七層の主街区《マーテン》を気ままにぶらぶらと散歩していた。
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