幻影-イリュージョン-
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彼の視線がかの空賊線『アバンギャルド号』に向けられていることに興味を抱いたテファがシュウに問いかけてきたが、はぐらかすように答えた。そのはっきりとしない返答の仕方は、テファには少し不満だった。
「ん?」
ふと、子供たちの中からサマンサが輪の中から飛び出て、船着場の傍らに駆け寄り、身をかがめてじっとそれを見た。
「おいサマンサ、一人で勝手に…」
「ねえマチルダお姉ちゃん。このお花、何?」
サマンサがマチルダのほうを振り向きながら、見つけた花を指差す。マチルダと、それに続いてシュウやテファたちもまた花を見る。
その花は、外見はチューリップに近い。だが、不気味さを孕んでいた。なぜなら、花弁が暗雲のような真っ黒な色に染まっていたのだ。
「この花…」
アスカはその花を見て目を細める。なんとなく、なんとなくだが…その黒い花には見覚えがあるような気がするのだ。それもずいぶん昔だが。
(どっかで見たことあんだよな〜。でも、なんか思い出せねぇ…)
もう自分の知る『ネオフロンティアスペース』の地球から離れたせいか、アスカは当時の戦いや敵のことを一部忘れているところがあった。宇宙を旅している身となると、どうししても時間がどれほど経過したのかさえもわからなくなっている。最近のアスカ個人の悩みだった。帰る頃にはもう、自分たちを待っているかもしれない仲間たちがお墓の下に…などとか考えたくないものだ。
「まるで黒い絵の具で塗ったみたい。こっちのお花は綺麗なのに…」
エマは黒い花の傍らにも咲いている紫色の花を見る。以前シュウと二人で買い物に出かけたとき、花屋でも見かけたことがある。
「『紫苑』の花か」
「知ってるの?この花」
以外にも花の名前を言い当てたシュウにテファは目を丸くした。
「いや…昔、地球で見た花に似ている気がしてな」
シュウは、その紫色の花を見て目を細めた。似ている気がする…とは言ったが、だからといって有り得るだろうか?
地球に存在していた花と言う自然の存在が、自分が知る限り『完全にそのままの姿で』異世界に存在していることが。
(……いや、たかが花相手に、考えすぎか)
似たようなものなんて、きっとこの世界にもいくらでもあるかもしれないのに。
「不気味だよな…いっそ引っこ抜くか?」
「ダメだよサム兄。お花さんかわいそうだよ」
サムの言い分にエマがびしゃりと突っかかる。サムの年頃の少年というものは、花に対して遠慮がないことが多く、逆に女の子は基本的に花を大切にする。そういった点は地球と共通しているようだ。
「さて、一端宿を取りに行こうか。ここで留まっても仕方ない」
マチルダの提案に全員が乗り、一向が港を去ろうとした時だった。
――――!
一人の少女がシュウの前をちょうど横切ったとき、彼は目を見開いた。少女は、後ろ
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