月下に咲く薔薇 6.
[1/8]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
クロウの全感覚が、ひそひそと話すロジャーとキラのやりとりを巧みに拾い始めた。
会議室には、未だクロウだけでなくロックオンと中原までもが残っている。果たしてネゴシエイター達は、それに気づいているのか、いないのか。
異様に声が小さな会話は、集中力を研ぎ澄ます事に長けた人間がようやく聞き取れるレベルのものだ。もし一般人が2人の横を通ったとしても、細かな息遣いを拾うだけに終わったろう。
ロジャーとキラは、ZEUTHとして戦いZEXISに合流したメンバー故に、仲間の能力が如何に優れているかを熟知している。その彼等が伺わせる異様に高い警戒レベル。バトルキャンプの中で2人は緊張状態にある、とクロウは確信した。
「これからどうしますか?」と、キラがロジャーに尋ねている。
「一応、無事に終わった事を彼女に伝えておこう」言うや、ネゴシエイターが早足で歩き始めた。「だが、その前に…」
2人分の足音が、かろうじて聞き取る事のできた会話を無情にも運び去ってゆく。
「せめて後少し! もっと、もっと大きな声で頼むぜ」
盗み聞きしているクロウとしては、もどかしさから胸中で催促の一つもせずにはいられない。但し、2人を引き留めては意味がないし、かといってこのまま行かせてしまうと、思うところがある人物から多くを掴み損ねる事になる。
しかし、残響は弱まり、とうとう声どころか靴音さえ全く聞こえなくなってしまった。
「ふぅ」聞いた内容の曖昧さに落胆し、クロウは壁に寄りかかったまま「どうだった?」と問われる前に浅く項垂れる。
「収穫無しか」
通路に誰もいなくなってから、ロックオンが出入り口へと移動した。安心して靴音を立て通路に顔を出す自分の行為を、些か奇妙に受け止めているのがわかる。
仲間相手に何をしているのやら、と自身で呆れているのだろう。
「無くはないが、せいぜいが2つ3つといったところだ。話していたのはロジャーとキラ。ただ、この2人は、肝心な部分までは俺の耳に入れなかった」
「…気づかれたのかもな」
「ああ」
クロウとて、その可能性を否定するつもりはなかった。生還率の高いパイロットは、優れた技量の他に鋭い勘をも併せ持つ。クロウの立ち聞きに気づいたからこそ、ネゴシエイター達は突然足早に去ってしまったのかもしれない。
「で、わかったのは、ロジャーとキラが密談をしてたって事だけか?」
ロックオンの上半身だけが、通路から会議室に戻って来た。
「いや。少しだけだが、やりとりは聞いてる」クロウは、聞き取った話の全てを整理しつつ壁から背を離す。「どうやら2人は、さっきの打ち合わせの最中に何かが起きると考えて来たらしい。心配の出所は、ロジャー言うところの『彼女』。他にも用事はありそうだったが、とりあえず打ち合わせが無事に終わった、とその『彼女』に知らせ
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ