第十一話。散花
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「……うん、解った、任せて。あんたはどうする?」
音央はいつも通りに接してくれた。
だから俺は、もう見っともないとこは見せられない!
ここで甘えたり、泣きつくのは逃げだ。
逃げるのはいつでもできる。
2人ならそれを許してくれる。
だから、なおさらそれはできない。
2人の物語の主人公として。みんなを物語にした主人公として胸を張っていられる為に。
俺は逃げない!
「手に入れた情報をキリカに伝えてくるよ」
そう。逃げ場にする為じゃなくて。前へと進む為に。
今、ここにいない仲間に伝達し、対応を相談する。
それが主人公と魔女の関係なんだから。
「解りました。でも、モンジさん」
「うん?」
懐からハンカチを取り出した鳴央ちゃんは。
「せめてこれを」
俺に手渡してくれた。
「……ありがとう、鳴央ちゃんには優しくして貰ってばかりだな」
「音央ちゃんにも、ですよね?」
「ははっ、その通りだ」
わざと明るく笑いながら、ハンカチを受け取った。
そのハンカチが妙に暖かく感じて、何だか泣きそうになってきた。
いかん。こんなところで泣き顔なんて見せられん。
人前で泣くなんて。女性の前で男が泣くなんて見っともないからな。
「それでは、庭園の出口を……キリカさんの家の辺りにしておきますね?」
「別に文句とかつけるつもりもないし、何か言うつもりはないけどさ」
「ああ」
「ちゃんとあんたらしく、立ち直りなさいよね」
「…………」
俺らしく、か……。
「音央、君はやっぱりいい女だよ」
「そんなのとっくに解ってたでしょ?」
「ふふっ」
俺と音央のやり取りに、鳴央ちゃんが微笑む。
______そう、これだ。
俺はこんな空気を守る為に、ちゃんと立ち直らないといけないんだ。
今はまだ、とってつけた『いつも通り』だけど。
それが当たり前の『日常』を取り戻さないといけないんだ。
「任せて! って言いたいところだけど……うん、まあ……もう少し後悔するよ」
「そうね。いっぱい反省して、どん底から這い上がりなさい」
「お待ちしてますね」
俺に叱咤激励してくれた音央と鳴央ちゃん。
そんな彼女を見ると改めて思う。
……あの時、頑張ってこの2人を助けてよかった、と。
そんな気持ちが、悔しさで潰されそうだった俺の一つの糧になる。
今はこの気持ちがあれば、前へと進めそうだ。
「それじゃ、頼む」
「はい」
俺は、この優しい『妖精庭園』から抜け出して。
今は力を失っている『魔女』の元へと向かったのだった。
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