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パンデミック
第七十二話「鬼」
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お前が苦戦するとは思ってもいなかったからな。で、どういう状況だ?」

「……見ての通りよ。あそこにいる白髪のクソ化け物に腕は持ってかれるわ、殺されかけるわ、最悪。
蹴り潰してミンチにしたいんだけども」

「スコーピオの命令を忘れたか? "何があってもブランクと言う白髪の適合者だけは殺すな"だ。
もし殺せば、我々がスコーピオに殺される」




「でも……殺す気でいかないと、あの化け物どうにもできないわよ」




ブランクは今や、適合者さえ恐れるほどの異形に変貌を遂げていた。
スコーピオから聞かされた印象と、今の姿では完全に一致しない。
アクエリアスはたった今ブランクの姿を見たばかりで、ブランクがどれほどの状態か知る由もない。
しかし、ヴァルゴはこれまでの戦闘で嫌と言うほどその力を思い知らされた。



「………今のところ動きはない。様子を見て動きを封じよう。…奴も適合者だ。手足の2,3本無くなったところで
死にはしないだろう。スコーピオの命令通り奴を捕らえよう」

「簡単に言ってくれるわ……」





「……………」

2人の適合者を前にしても、ブランクの様子は変わらない。
ずっとボソボソと、周りに聞こえない声量で何かを呟いている。
唇の動きを見ても、まともな言語にはなっていない。


「(異質とは正にこのことだな……不気味さがここまで際立つ奴は初めてだな…さて、どう出…)」




「獲物獲物得物エモノ獲物、黒い黒イ食い物、仲間喰う守ル守る……」




意味不明な言葉の羅列がハッキリと聞こえた。


耳元で。









「「ッ!!??」」


声が聞こえたと気づいた直後、背後から血の気が引くほどの寒気を感じた。
ヴァルゴとアクエリアスは、同時に咄嗟の判断で回避行動をとる。

考えて回避したのではない。
理論ではなく、もっと原始的な、生物としての「生存本能」が2人の身体を動かした。

しかし、それでも間に合わなかった。


一瞬にも満たない間に、ヴァルゴの腹に掌底を叩き込み、アクエリアスの右足を片手で掴み、引き千切った。


「ぐぇっ……ッ!?」

「ぎ……ぁ!?」



苦痛の声を漏らし、2人は地面に沈んだ。

適合者でギリギリ何をされたか理解できるレベルの素早さだった。
そんな早業を、人間のクレアが理解するのはもはや不可能だろう。

突然ブランクが消えたかと思えば、気づけば片手に適合者の脚をぶら下げて突っ立っていたのだから。
そして、気づいたことがもう一つ。


コープスの侵食がさっきよりも進んでいる。
右腕から右肩を通り越して、右の顔にまで及んでいる。

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