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目覚めると
第五章

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「寝過ぎたわ」
「本当に変わったのですね」
「ずっと変わらんと思っていたが」
「数百年もすれば」
「本当に変わるわ」
「全くですね」 
 女房も城の方を見つつしみじみと言った。
「ここまでとは」
「そうなるまでもな」
「色々とあったのですね」
「それを知ることもな」
 それもというのだった。
「今になってじゃったな」
「そうでしたね」
「しかしじゃ、これからはな」
「ここに住んで」
「見ていこう、あの天守閣もな」
 その巨大な建物が何かも教えてもらった、その名で呼んだのだ。
「見ていこうぞ」
「そしてこの町で生きるのですね」
「うむ、夜寝て朝起きてな」
 他の者の様にそうして、というのだ。
「これからどうなるかも見よう」
「では」
 女房は夫のその言葉に笑顔で頷いた、そしてだった。
 二人で大坂の町に住みはじめた、生業は医者にした。医者として秀吉の時代も大坂の陣も見て江戸時代、明治大正昭和と生きて。
 その素性を隠してだ、大阪の子供達に話すのだった。
「それで太閤さんの時の天守閣はな」
「ふうん、そうだったんだ」
「そんなに凄かったんだ」
「大きかったんじゃぞ」
 子供達に見たものを話すのだった。
「とてつもなくな」
「何かお爺ちゃんとお婆ちゃんの話って見てきたみたいだけれど」
「実際に見てきたの?」
「ははは、そう思ってくれれば面白いのう」
 仙人は子供達に笑ってこうも言うのが常だった、実はどれだけ生きているのかは語らずにだ。こう笑って話すのだった。夫婦で見てきたし見ている大阪の何百年もの姿を。


目覚めると   完


                            2015・3・19
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