1部分:第一章
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世紀をいえば丁度神聖ローマ帝国が成立した頃だ。この領邦国家は名実だけは十九世紀まで続いた長い歴史を持った国家であった。
だがその内実は何時までも領主達の力が強くまとまりを欠いていた。そして三十年戦争で事実上崩壊し最後にはナポレオンによってその名さえも消されてしまう。教会と双頭の鷹ハプスブルグ家によって綱引きされ続けたモザイク国家であった。
だがそれが残したものも大きかった。ドイツ人にとっては最初の国家であったのだ。
見れば壁に双頭の鷹の紋章がある。どうやらこの家はかってハプスブルグ派であったらしい。
鎧や槍、剣等も飾られている。どうやらかなりの価値があるものらしい。
そういったものを見ながら僕は城の奥へ進んでいった。
執事は一言も発しようとしない。だがその足取りが老人のものではないように思えた。
(速いな)
まるで若者のようだった。見れば脚の動きが異様に速い。外見は六十を優に越えているようだが見かけよりも若いのであろうか。それともただの健脚か。
そんなことを考えているうちに城の奥にあるある扉の前に案内された。
「旦那様、お客様をお連れしました」
執事は低い声でそう言い扉をノックした。
「入ってもらえるように言ってくれ」
扉の向こうから声がした。低い男の声であった。
「わかりました」
執事は答えた。そして僕の方へ顔を向けた。
「どうぞ」
執事はそう言うと扉を開けた。
「はい」
僕は答えて扉の中へ向かった。その時執事の顔をチラリ、と見た。
廊下に飾られた燭台に照らされたその顔は異様に白く感じられた。それは肌の色の問題ではなかった。
まるで死人の様な顔であった。生気が無く蝋の様な白であった。
(・・・・・・・・・)
僕はその顔を見て一瞬不気味に思った。だがそれは失礼だと思い打ち消した。思えばこの時に既に本能で何かを察していたのであろう。
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