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盲腸
第四章

[8]前話
 病院を後にした、その帰り道にだった。静香は力也に意外といった顔で言った。
「ねえ」
「ああ、病院の方もな」
「あっさり認めてくれたわね」
「しかもな」
「ここだけの話にしてくれって言われたわね」
「言外にな」
「あの、小切手もあったわよ」
 病院側が差し出したものの中にというのだ。
「その額はね」
「口止め料か」
「それもあったわ」
「そういうことか、つまりは」
「医療ミスを認めたうえで」
「病院側は口止めにかかったな」
「そういうことね」
 こう夫に言うのだった。
「つまりは」
「そうだな、まあな」
「こっちもね」
「これだけ貰ったらな」
「いいわね、別に」
「ああ、ただ病院もな」
「揉めたらね」
 下手にだ、医療事故を認めずにだ。
「それで私達が弁護士さんを持って来たら」
「マスコミに言ったりネットで拡散も出来るしな」
「そうよね、そうしたらね」
「病院側もダメージを受けるからな」
「今医療事故が騒がれてるし」
「ここで認めないとな」
「かえってよくないと思ったのね」
 つまりここで素直に認めてお詫びをして口止めも出して内密に済ませた方がいいとだ、病院側も判断したというのだ。
「そういうことね」
「そうだな、けれどこれでな」
「ええ、私達もね」
「あっさりと事情が終わったしな」
「色々と貰ったし」
 小切手まで見てだ、静香は力也に話した。
「よかったわね」
「これでいいか」
「ええ、揉めないで色々貰えたし」
「よかったな」
「病院側も痛い出費だったし」
「危ない思いもしたし」
「もう医療ミスには気をつけるわね」
 静香はまた言った。
「病院も」
「そうだな、下手に弁護士さんだのマスコミだのネットだのいう話にもならずな」
「ことが済んで」
「俺達にもよかったし」
「病院にもよかったわね」
「口止めとかはよくないにしても」
 力也は杓子定規な話も出した。
「けれどな」
「話が収まってね」
「これでよしとするか」
「これでね」 
 こうしたことを話してだった、二人は力也の傷が完治してからレストランにも温泉にも行った。そうして小切手の金を色々と使ったのだった。医療事故のことは忘れなかったが。


盲腸   完


                         2015・5・24
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