暁 〜小説投稿サイト〜
米五郎左
第二章

[8]前話 [2]次話
「見事に政をする」
「ですな、しかし」
「しかし?」
「いや、五郎左殿は」
 前田が言う彼はというと。
「一見しますと地味で」
「そうじゃな、目立たぬ」
「あまりこれといって際立った方ではなく」
「そうじゃ、しかしじゃ」
「何でも出来て」
「その人柄もじゃ」
 それもというのだ。
「悪口は言わぬ、また強くも言わぬ」
「穏やかな方ですな」
「わしはとかく言う」 
 柴田は自分のことも言った。
「殿にもな」
「ですな、言うべきと思われた時は」
「言う、どんな厳しいこともな」
 柴田は信長に謹言をすることも憚らない、それは時として叱咤するかの様な厳しい口調になることもある。
 だが、だ。丹羽はというと。
「五郎左は厳しいことは言わぬ」
「決して」
「殿にも誰にもな」
「しかし的確に」
「そうじゃ、言う」
「忠告されますな」
 前田は確かな声で言った。
「誰にも」
「わしにもするしな」
「それがしにもです」
「穏やかに、しかし的を得て」
「そうしたことが出来るのもよいことじゃ」
「ですな、まことに」 
 柴田と前田も頷くのだった、丹羽は凄いとだ。
 そして信長もだ、何かあるとだった。
 まずは丹羽にだ、言うのだった。
「さて、武田じゃが」
「はい、またおかしな動きを見せていますな」
「どうすべきと思うか」
 岐阜城の中でだ、彼は丹羽を自分の前に呼んで問うたのである。
「この度のことは」
「武田は信玄入道は死にました」
 ここからだ、丹羽は答えた。
「しかしその家臣達は皆健在です」
「そうじゃな」
「そして今の主武田四郎勝頼もです」
 その彼はというと。
「愚かではない、いえ政も戦もわかっております」
「虎の子は虎じゃな」
「まことに。しかも武田の国も兵もそのままです」
 信玄の時からだ、全く衰えていないというのだ。
「非常に強いです」
「ここで我等が戦おうにもじゃな」
「苦しいものになるかと」
「今竹千代が攻められておる」
 徳川家康、織田家の盟友である彼がというのだ。
「長篠城もな」
「高天神の城も抜かれました」
「このままでは危ういな」
「徳川殿もお強いですが」
 しかしというのだ。
「やはり武田には敵いませぬ」
「敗れるか」
「このままでは」
 丹羽は小さな声で信長に答えていく。
「そうなります」
「そうじゃな、しかし」
 信長はここでその目を険しくさせた、そうして。
 丹羽にだ、こう問うた。
「このまま竹千代を見捨てるべきか」
「それはなりませぬ」
 丹羽の言葉の調子は変わらない、だが。
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ