第六章
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「それだけでな」
「そういうものか」
「お米でそうしたこともわかる」
「親父はいつも言ってるけれど」
「そうなのね」
「麦飯にしてもな」
そちらの飯もというのだ、海軍で食っていた。
「今みたいにいい麦を入れたのじゃなくてな」
「質の悪い麦でか」
「しかも変に多くてよね」
「冷えてもいて」
「まずかったのよね」
「ああ、今は麦飯も美味い」
どの時代の麦飯も食べているからこその言葉だ。
「本当にいい時代だよ、確かに食えるだけましだよ」
「けれど食うものも」
「質が大事なのね」
「それで色々とわかる」
「産地も日本の状況も」
「そうなんだよ、だからいい飯を食えることはいい時代にいるってことだ」
まさにだ、そうだというのだ。
「そおことは知ってくれよ」
「何度も聞いてるからな」
「もう暗唱出来る位よ」
息子と娘は苦笑いで言う、そして孫達も。
「そうそう、お祖父ちゃんね」
「いつもそう言うから」
「もうね」
「僕達も覚えてるよ」
「いい御飯を食べられることはいいことだって」
「いつもね」
「ははは、そうか。けれどな」
勇悟は孫達にもだ、話した。
「その通りだぞ、美味いものを食えてこそだ」
「何でもなんだね」
「はじまるんだね」
「美味しい御飯を食べられる」
「このこと自体が」
「そうだぞ、だから今はいい時代だよ」
それもかなりというのだ。
「もっともっといい飯が食えたらそれに越したことはない」
「そして逆に言えば」
「もうまずい御飯は食べたくないのね」
「その通りだ、終戦の時みたいには戻りたくない」
息子と娘の言葉にここではこう返した。
「本当にな」
「まあそれはな」
「その通りね」
息子と娘もだ、父のその言葉には頷いた。
「戦争に負けて食いものが碌になくなって」
「そうした状況になることはね」
「なりたくないな」
「本当にそうね」
「全くだ、とにかくな」
今はというのだった、勇悟はまた。
「この美味い飯を食うか。じゃあ婆さん」
「はい、おかわりね」
これまで黙っていた女房が笑みを浮かべて応えた。
「もう一杯」
「ああ、頼むな」
こう話してだ、そしてだった。
勇悟はおかわりをしてその飯も食べた、美味い飯を食えることに誰よりも感謝しつつその味を楽しみ幸せを感じていた。
米 完
2015・4・17
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