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第一章
襖
小さい頃怖いものがあった。
それは何かというと襖だった。それがやけに怖かった。
妙子はいつも襖を見ては脅えていた。幼い頃の記憶だった。
「何でもない筈なのにね」
大人になった今でもくすりと笑ってそんな話をする。話をしてもそれでもまだ襖を見てまだ怯えが目に見られている。その目で語るのであった。
「怖かったのよ」
「そうだったんだ」
「ええ、そうだったのよ」
そう僕に言う。
「それがどうしてかっていうとね」
「どうしただったんだい?」
「少し長い話になるけれどいいかしら」
その整った顔を僕に見せて尋ねてくる。
「それでも」
「いいよ。それでどんな話なのかな」
「ええ、それでね」
僕の言葉を受けて話をはじめてきた。
「その話だけれどね」
「うん、それは一体」
僕は黙ってその話を聞くことにした。彼女の幼い頃の話であった。
妙子の家は古い家だった。所謂屋敷であり全て和室であった。
和室といえば襖と障子である。向こう側が見える障子は好きだったが見えない襖がどうしても怖くて仕方がなかったのだという。
「隣に何がいるのかしら」
彼女が襖の向こうで考えるのはそれであった。
「何がいて何をしているのかしら」
幼い頭の中で考えるのだった。襖の向こうには誰がいるのか。
それを考えると気配を感じるようになる。誰がいるのか見たくなる。けれどその襖を開けて誰がいるのか考えると。どうしても怖くなるのであった。
「お父さんやお母さんじゃないかも」
両親だけが家にいるとは考えられなかったのだ。子供心には。
「ひょっとしたら他の人かも。いえ」
そうしてさらに怖い考えになるのだった。
「お化けかも。そうしたら」
襲われて食べられてしまう。そう考えると怖くて仕方がなかった。
だから襖を開けることができなかった。近付くことすら怖かった。そうした時はいつもお父さんかお母さんにその襖を開けてもらう。その時もその足にしがみついて離れないのであった。
「妙ちゃんは何を怖がっているんだい?」
「それがわからないのよ」
お父さんもお母さんも妙子がどうしていつも怖がっているかわからなかったのだ。
「どうしてなのか」
「わからないのか、御前も」
「ええ。貴方は?」
「俺もだ」
お父さんもそう答えるだけだった。
「家の中にいるのは家族だけなのに」
「そうよね」
そうなのであった。だが彼等はそれを大人の目線で話していてそれは決して子供の目線ではなかった。だから妙子が怖がる理由に気付かなかったのだ。
しかし気付かなくとも心配なのは事実である。親としては子供が怖がるのは見ていられない。そうして二人はあれこれと話をするのであった
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