第四章
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「この傷を癒してだ」
「それからだ」
「また闘いだ」
「今度こそ決着をつける」
「また引き分けたが」
「次はこうはいかない」
こう言うのだった、その口調は確かに忌々しげだ。
しかしだ、忌々しげでありながらもだった。
モビーディッグもクラーケンもその言葉の中には清々しさがあり決して怨むものはなかった。それで再戦を期すのだった。
モビーディッグとクラーケンはそれからも何度も闘い太平洋の覇権を争い続けた、それが何時終わったかは誰も知らない。
だがイシュメールはアメリカの港に帰った時にだ、その港のある町の酒場でとある作家にこの話をした。
「海にはそうした化けものみたいな鯨や烏賊がいまして」
「モビーディッグ、クラーケンと呼ばれているのですね」
「はい、もう船なんか一撃で吹き飛ばす位の」
「大きさと力を持っている」
「凄いなんてものじゃないです」
興奮した口調でだ、彼はその作家に話していった。店のラム酒を飲みつつ。
「海の、その大自然は驚くべきものですね」
「人の物差しではとてもですね」
「測れないです、いや本当に」
「神秘的ですらありますね」
「そうですね、船乗りになって運がよければ」
まさにだ、その運の力によってというのだ。
「そうしたものが見られますよ」
「そうなのですね」
「まあ運が悪ければ」
イシュメールは作家に笑ってこうも言った。
「その闘いに巻き込まれるかどっちかに襲われて」
「終わりですね」
「そうなりますけれどね」
「そうですね、しかし凄いお話です」
作家はイシュメールにしみじみとして答えた、そして。
そのうえでだ、彼もまたラム酒を飲みつつこう言ったのだった。
「インスピレーションを受けました」
「あっ、そうなんですか」
「今日貴方から聞いたお話を元に書きたくなりました」
「小説をですか」
「是非共」
「そういえば貴方は船乗りでもありましたね」
「いや、色々とありました」
今度は作家が笑ってイシュメールに応えた。
「若い頃は」
「脱走だの何だのあったそうで」
「そうしたことが色々と」
「ではそうした経験も含めて」
「作品を書こうと思っています」
「そうですか、では頑張って下さい」
イシュメールも作家にこう返した。
「是非」
「はい、必ず名作にしてみせます」
作家も約束する、そして。
イシュメールは作家にだ、その名前を尋ねた。
「それで貴方のお名前は」
「メルヴィルといいます」
作家は微笑み自分の名を告げた。
「ヘンリー=メルヴィルといいます」
「そうですか、メルヴィルさんですか」
「はい」
作家は自分の名をそうだと答えた。
「それが私の名前です」
「ではメルヴィルさん、これからは」
「そのモビー
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