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馬脚を表す
第六章

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「足もな」
「その馬の足だよな」
「洗うさ」
「シャンプーでか?」
「そうする、髪の毛は最近気になってたのにな」
 抜け毛が増えた気がしていたのだ、歳相応に。
 だが、だ。今の足は馬の足でそれでなのだ。
「足は毛深いな」
「いいことじゃないか?」
「いいものか、馬の足だからな」
 それで、というのだ。
「大変だよ」
「だよな、やっぱり」
「そうだよ、とにかくな」
「風呂はだな」
「入るさ」
 こう言ってだ、真司は風呂でその足も洗った。シャンプーで。
 それから遅い夕食を食べて歯も磨いてベッドに入る、そこで妻に言った。
「明日もな」
「足のこと?」
「本当に嫌だよ」
「冗談抜きに義足にしてもらう?」
「ああ、そっちの方がましだからな」
 馬の足よりはというのだ。
「だからな」
「じゃあこっそりとお医者さんにお願いして」
「そうしようか」
「仕方ないわね、それも」
「何でこんなことになったんだ」
 真司はたまらずこうも言った。
「訳がわからない」
「本当に馬の足みたいね」
「それか山月記だな」
 中島敦の代表作であるこれだというのだ。
「どっちにしてもな」
「理不尽な話よね」
「俺が何かしたのか」
 こうも言ったのだった。
「本当に酷いことだよ」
「そう言うしかないわね」
「まあいい、もう疲れた」
「後は寝るのね」
「そうする、ただ普通じゃ寝られそうもない」
 色々と考えることがありだ、自分自身の現状に。
「酒飲んで寝る」
「何飲む?」
「ブランデーにする」
 強い酒をというのだ。
「とりあえず寝られるまで寝る」
「今日は仕方ないわね」
「ああ、明日も仕事だ」
 それならというのだ。
「寝ないとな」
「そうね、何はともあれね」
「寝る為に飲む」 
 義の為に遊ぶのなら太宰治だが彼の場合はこうなる。
「それじゃあな」
「飲むのね」
「それから飲む」
 こう言って実際にだった、真司はブランデーを浴びる様にして飲んでそれから寝た。自分自身に起こった理不尽な事態を恨みながら。
 そして朝起きた、すると。
 その足はだ、何とだった。
 戻っていた、それで百合にびっくりして言った。
「おい、戻ったぞ」
「あら、足が」
「人間のものに戻ってるぞ」
 自分の足、それを見ての言葉だ。
「何だこれは」
「昨日は馬の足だったのに」
「人間の足に戻ってるぞ」
「本来の足にね」
「動くぞ」
 足の指を動かしてみた、蹄でないそれは。
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