第二章
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「朝から」
「違う、大変なことになった」
「大変なこと?」
「これ見ろ、これ」
妻を起こして言うのだった、そして。
自分のその脚を見せてだ、こう言ったのだ。
「朝起きたらこうなっていたんだ」
「えっ、何その脚」
妻も彼の脚を見て驚いた、何とだ。
膝から少し下の部分、足の部分全てがだ。人のものではなく。
馬のものになっていた、それこそまさしく。
「芥川の小説じゃない」
「馬の脚だろ」
「何で馬の脚になってるのよ」
「俺が聞きたいよ、そんなことは」
「またおかしなことになったわね」
「どうしてこうなったんだ」
真司は驚きを隠せないまま言うしかなかった。
「急に」
「ううん、けれど」
「けれどど。何だ」
「あなた今日も仕事よね」
「ああ、会社に行けばな」
それこそだ、課長である彼の席にはだ。
「昨日の仕事の残りがある」
「じゃあ行かないとね」
「こんな脚になってもか?」
「だってあなたがおかしくなったのは脚だけでしょ」
その馬の脚だけだというのだ。
「だったらね」
「行くしかないか」
「生きていたら仕事をしないと」
「そしてお金を稼がないとか」
「駄目でしょ」
「それはそうだけれどな」
「だからよ」
それで、とだ。妻は冷静に言うのだった。
「確かに大変なことだけれど他の部分が悪くないのなら」
「行くしかないか」
「ええ、とりあえずね」
「そうか、じゃあ朝飯食ってな」
真司も妻に言われてだ、少し冷静になって述べた。
「スーツ着てな」
「靴履いてね」
「行くしかないな、しかし馬の脚でな」
問題はこのことだった、今の彼の最大の問題は。
「どうして靴を履くんだ」
「そのことね」
「この脚だぞ」
見事な蹄だ、馬の奇蹄である。黒い毛もふさふさとしている。走ると如何にも速そうだ。
だが、だ。靴を履くにはだ。
「どうして履けばいいんだ」
「とりあえず靴には詰めものをして」
妻はここで智恵を出した。
「それで足はね」
「これで履けるか」
靴が、というのだ。
「どうすればいいんだ、俺は」
「だからよ、靴に詰めものをして」
百合は考える顔で真司に言う。
「そしてね」
「それに加えてか」
「その蹄に」
夫のその足も見ている。そうしつつ必死に考えている。
「添え木?でもして」
「そしてか」
「人の足の形にしてよ」
「そして靴を履いてか」
「そうしていく?」
「ややこしい事態だな」
「けれど仕方ないわ」
それでもと言う百合だった。
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