第四章
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「銭でも刀でも馬でも何でも出すぞ。これは見事じゃ」
「そうですな、では槍を」
母里は福島に笑って返した。
「日本号を下され」
「何と、あの槍をか」
母里の今の言葉には福島だけでなくだ、周りの者達も仰天した。危うく立ち上がらんばかりにさえなっていた。
そしてだ、福島は酔いが醒めて言うのだった。
「いや、あれだけはじゃ」
「何でしょうか」
「ならん」
こう言うのだった、すっかり狼狽して。88
「あれだけはならん」
「それは何故でしょうか」
「わしの、いや当家の家宝ぞ」
だからだというのだ。
「それも一番のじゃ、あれだけはならん」
「ですが奥方様以外はと」
「確かに言った、しかしじゃ」
それでもというのだ。
「あれだけは駄目じゃ、他のものならよい」
「武士に二言はないといいますが」
母里は慌てる福島に余裕を以て問うた。
「違いますか」
「それはそうじゃが」
「しかも福島様は天下の豪傑、嘘は申されませぬな」
「当たり前じゃ、わしは武士じゃぞ」
福島もこのことは強く返す。
「それで何故嘘を言う」
「さすれば」
「ううむ、あの槍以外はじゃな」
「いりませぬ」
母里はこのこともはっきりと言い切った。
「それだけを」
「そうか、わかった」
口惜しい顔であるがだ、福島も答えた。
「さすればな」
「では」
「あの槍を持って参れ」
福島はあらためて周りの者に告げた。
「そしてこ奴に渡すのじゃ」
「はい、それでは」
「これより」
周りの者達も頷いてだ、そして。
その見事な槍を持って来て母里に手渡した。彼はその槍を手に黒田家の屋敷に意気揚々と戻ってだ。黒田と同僚達にその槍を見せつつ一部始終を話した。そこまで聞いてだった。
黒田は笑ってだ、母里に言った。
「太兵衛、よくやった」
「そう言って頂けますか」
「うむ」
こう言うのだった。
「市松にいい薬となった」
「酒のことで、ですな」
「これであ奴も懲りた筈じゃ」
「日本号を手放すことになってですな」
「御主の酒のことを知らないでやったのじゃ」
彼に飲めたら何でもやると言ったそのことだ。
「まさにあ奴の自業自得じゃ」
「だからですな」
「あ奴にとっていい薬じゃ、わしもあ奴の酒癖には困っておる」
共に秀吉子飼いの者だ、付き合いの中で共に酒を飲むこともあるがその時に彼もまた福島の酒癖の害に遭っているのだ。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「その話を聞いて胸がすっとした」
「左様でありますか」
「よくやった、それで褒美をやろう」
黒田は福島に薬を与え自身も溜飲を下げさせてくれた母里にまた言った。
「その槍は御主のものじゃ」
「それがしにこの槍を」
「褒美は他にも渡すがな
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