第二章
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「だからよいな」
「ではこれより」
「うむ、行って参れ」
こうしてだった、黒田は母里を伏見にある福島の屋敷に行かせた。屋敷に入ると福島家の家臣達が難しい顔で応えてきた。
「ようこそ、ですが」
「福島様は、ですな」
「お気をつけを」
小声でだ、彼に囁きもしてきた。
「殿は今飲まれています」
「やはりそうですか」
「はい、今日はお暇なので」
それでというのだ。
「飲まれています」
「わかり申した」
「わかり申したとは」
「もう殿もおわかりですので」
「貴殿を寄越されたのですか」
「そうです、ですから」
母里は笑って福島家の者に話した。
「ご安心を」
「流石に他家の方ですから無体なことはされませぬが」
切腹を言ったり斬りつけたりといったことはというのだ。
「ですがそれでも」
「かたじけない、ですが」
「ご安心をというのですな」
「左様です」
福島家の家臣は母里を心から心配して言うのだった・
「そうされて下さい」
「お気持ち承りました」
母里も彼の気配りが伝わりこう返してだった。福島の前に参上した。すると実際に彼は主の座で大盃に酒を入れてだった。
実に美味そうに飲んでいた、その漆塗りの盃を手に母里の挨拶を受けてだ、彼の口上まで聞いた。ここまではよかった。
しかしだ、それからだった。彼はこう母里に言った。
「御主も一杯どうじゃ」
「酒をですか」
「そうじゃ、美味いぞ」
その手にしている大盃を彼に差し出しての言葉だ。
「今日の酒は特にな」
「有り難きお言葉、ですが」
「飲めぬというのか」
「それがし殿から仕事を仰せつかり参上しました」
だからだとだ、母里は断って返した。
「ですから」
「わしの酒じゃぞ」
「ですがそれでも」
「ふん、面白くない奴じゃ」
母里が断るのでだ、福島は眉を顰めさせて返した。
「実にな」
「面白くないとは」
「酒を飲まぬ奴を面白くないと言って何と言う」
こう言うのだった。
「酒こそが最も楽しいものではないか」
「それ故にですか」
「そうじゃ、全く御主は面白くない者じゃ」
こう飲みながら言うのだった。
「それが黒田家の武士か」
「いえ、それは拙者だけですが」
「どうだか。使者はその家の顔ぞ」
福島はこうも言った。
「その御主がその様では黒田家の武士もな」
「面白くないと」
「酒も飲めぬか、がっかりしたは」
「さて、そこまで言われますか」
母里は福島の酒癖は知っていた、だが。
その彼の言葉が気に触ってだ、むっとした顔で言葉を返した。
「ではそれがしもです」
「どうするのじゃ?」
「福島様の申し出受けましょう」
こう言うのだった。
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