第一章
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日本号
とかく福島正則は酒癖が悪い、酒を飲みはじめるととことんまで飲まねば気が済まずしかも酒乱で絡んでもくる。
それで泥酔した時に家臣に切腹を命じて酔いが醒めてから過ちに気付いてその家臣の首に泣いて詫びたこともあった、それでだ。
「市松の酒癖には困ったものじゃ」
彼の主である太閤豊臣秀吉もよくこんなことを言っていた、とかくだ。
彼の酒癖の悪さは天下に知られていた、それで天下の者もよく彼の酒について眉を顰めさせて話をしていた。
「酒が入った福島様には近寄るな」
「近寄ったらどうなるかわからんぞ」
「とかく酒癖の悪い方じゃ」
「厄介なことになるのは間違いない」
「近寄らぬが一番」
「命あっての物種じゃ」
こんな話がされていた、しかし。
福島は酒好きでよく飲み福島家の家臣達は仕方ないにしても他家の家臣達は福島家に行くことを嫌がっていた、それでも行かねばならぬ時があった。
それでだ、福島家に人をやる大名もその時は苦い顔になった。それでだった。
この時の黒田長政も苦い顔になってだ、周りの家臣達に問うていた。
「これから市松のところに人をやるが」
「今は福島様はお暇ですし」
「ですから」
「飲んでおるであろうな」
実に苦い顔での言葉だった。
「あ奴は」
「飲まれて、ですな」
「そのうえで」
「その酒のお癖をですな」
「出されていますな」
「酔って己の家臣に訳もなく切腹を言う奴じゃ」
黒田もこのことを言うのだった。
「殴られてまだましじゃ」
「下手をすると手打ちですな」
「そうもなりかねませんな」
「そうでなくとも絡む方ですし」
「これから人をやるにしても」
「誰をやるか」
「何でしたらそれがしが」
ここで名乗ったのは家老の後藤又兵衛基次だった、黒田家きっての武辺者でその武は天下に知られている。
「言って参りますが」
「言って市松が絡んで来たらどうする」
「決まっております、拳でお窘めます」
「ならん」
黒田は後藤の笑っての言葉にすぐに返した。
「大名を殴ってどうするか」
「しかしそうでもしなければ」
「市松の酔いは醒めぬというのじゃな」
「左様です」
「そこまですることはない、というかじゃ」
黒田が言うにはだ。
「御主が行けば家と家の騒動になるから駄目じゃ」
「では」
「御主は豪に過ぎる、他の者をやる」
「では誰を向かわせますか」
「ここは」
「後藤殿でなければ」
「一体誰を」
「そうじゃな、ここはな」
ここでだ、黒田は。
その場にいる家臣達を見渡してからだ、その中にいる母里友信に対して声をかけた。
「太兵衛、御主に頼めるか」
「それがしですか」
「そうじゃ、福島家に行ってくれるか」
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