第一章
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難役
ウォルフガング=アマデウス=モーツァルトは幼い頃より作曲を行い音楽の天才ともミューズの子とも呼ばれていた。
その音楽は実に軽やかでかつ絶妙でだ、まさに天才が作るものだった。
しかしその曲のうちの一つを見てだ、オーストリア皇帝でありモーツァルトを彼が幼い頃より知るヨーゼフ二世は首を傾げさせてだ、モーツァルトに問うた。
「モーツァルト君、その曲は」
「何かありますか」
「素晴らしい曲だが」
その顔をいぶかしめさせていた、首を傾げさせつつ。
「しかし」
「しかしとは」
「あまりにも難し過ぎないかね」
歌うにはというのだ。
「ここまでの曲は。人は歌えないのでは」
「いえ、陛下。この曲はです」
モーツァルトはにこりと笑ってだ、皇帝のその問いに答えた。
「人が歌えることをです」
それをというのだ。
「考えています」
「人が歌える曲なのかね」
「音楽は人が歌え演奏出来るからこそです」
「音楽というのだね」
「はい」
まさにそうだというのだ。
「ですから」
「ではこの歌も」
「歌手の方を念頭に置いて作曲していますので」
こう皇帝に答えるのだった。
「ご安心下さい」
「人が歌える歌か」
「はい」
「卿が作ろうともか」
「私が作ろうともですか」
「卿の音楽は神の賜物だ」
これは最高の賛辞だった、音楽を作る者に対する。
「それ故に神の音楽と思うが」
「陛下、確かに私は音楽を作ります」
モーツァルトは皇帝の言葉に微笑みつつ答えた。
「その音楽には自信があります、ですが」
「それでもというのだね」
「私とて神ではありません」
こう言うのだった。
「人です、ですから」
「人の音楽か」
「はい」
そうだというのだ。
「人が作った人の音楽なので」
「人が歌えるのだな」
「そして奏でられます」
そのどちらもだというのだ。
「だからこそです」
「歌えるのだな、その曲も」
「はい、しかもこの曲はその声域であれば」
「コロトゥーラ=ソプラノであれば」
「歌えます」
「歌えはしても世に僅かではないのかね?」
皇帝はその歌の難しさからだ、モーツァルトにこうも問うた。
「これ程までの曲は」
「いえ、広く歌われます」
「この難しさでもか」
「私は誰にも私の音楽を聴いて歌って奏でて欲しいのです」
モーツァルトの望みだ、彼は自分の音楽を僅かな者にだけ楽しんで欲しくはないというのだ。それでなのだ。
「ですからこの曲も」
「コロトゥーラ=ソプラノならば歌える」
「はい、正しく教育を受けた歌手ならば」
それが可能だというのだ。
「ですから、ですから今度の舞台でもです」
「期待していいか」
「必ず
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