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第一章
蛇帯
「全くうちの宿六ってきたらね」
長屋の入り口において。女房達が仕事の合間に世間話をしていた。その中の一人、一際むくれっ面になっている赤い着物の女がぶつくさと文句を言っていた。
「毎日毎日帰りが遅いんだから」
「帰りが遅いっておそのさん」
「ひょっとして旦那さん」
その女おそのの言葉を聞いて周りの女房達が彼女に対して尋ねる。
「甚平さんひょっとして」
「若い娘を囲ってるんじゃ」
「生憎そんな奴じゃないんだよ」
おそのはむくれながらこう答える。浮気ではないというのだ。
「あいつは女には奇麗なんだよ」
「そうなのかい。そういえばそうだったね」
「そっちの方はあの人はね」
「奇麗なものさ。それでもだよ」
まだ彼女は言う。それでも。
「全く。博打博打って」
「そう、それだよ」
「あの人はそれが大好きだからね」
「帰りが遅くていつもこっちはいい迷惑だよ」
今度は口を尖らせての言葉だった。両手を腰に置いたうえでなので実に迫力がある。角が今にも生えそうでまさに鬼婆である。そうとしか見えない。
「待つ身はね」
「男ってのはそういうの考えないからね」
「全くだよ」
女房達は笑っておそのに対して述べる。
「うちの亭主は酒だしね」
「うちも」
彼等の亭主達も彼等は彼等で勝手なものだったのだ。何時でも何処でも男というものは実に勝手なものである。彼女達にとってみればそうである。
「我儘なんだからね」
「たまには子供達の世話でもすればいいのね」
「全くだよ」
おそのの顔がさらにむくれる。
「手前の仕事だけやってればいいってもんじゃないんだよ」
「全くだよね」
「本当にわかってないんだから」
めいめいこう言い合う。言い合っていて次第に腹が立つのも収まってきたのだった。おそのの顔もそうなってはきていた。しかしそれでもであった。
「今度帰るのが遅かったらね」
「どうするんだい?」
「目にものみせてやるわ」
こう言いきるのだった。
「今度こそね」
「さて、どうするんだい?」
「帰ってきたらすぐに頭から水を被せてやるのかい?」
「それはもうやったよ」
やったというのだ。これまた随分と気が強い。
「やってニ三日は大人しかったよ」
「ニ三日かい」
「ニ三日経ったらまただよ」
やはりまた顔がむくれてきた。
「全く。ふざけた話だよ」
「懲りないねえ、甚平さん」
「本当にね」
「だから今度は何してやろうかしら」
むくれた顔で言葉を続ける。
「今度は」
「まあ何か考えた方がいいわね」
「それはね」
彼女達もそれは勧める。
「やられっぱなしじゃね。女房の顔が廃るってもんだよ」
「女は強いんだよ」
実際に
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