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夫を救った妻の話
夫を救った妻の話
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札が貼り付けてあったがそれを完全に破壊していた。
「この様なもので私を止められると思うているのか!」
 またあの声がした。そして扉は無残に破壊された。
 その扉の向こうに鬼がいた。姿はあの女のものであった。
 しかしその表情は普段のそれとは違っていた。口は耳まで裂け歯は全て牙となっていた。そして目は赤く光っていた。
「どうやら知ったようだな、私のことを」
 鬼は壬を睨みつけて言った。
「ああ」
 壬は恐れる気持ちを必死に抑え答えた。少しでも怯めばそれで終わりであることは鬼の様子でわかった。
「まさか鬼だったとはな。それも人を食らう鬼だとは」
「そこまで知っていたか」
 鬼は爪を振りかざした。禍々しく伸びている。
 髪が蠢く。まるで蛇の様にのたうつ。
「では生かしてはおけぬ。今ここで食ろうてやるわ」
「もとよりそのつもりであっただろうが」
 ここで退くわけにはいかなかった。壬はあの蝿叩きを前に構えた。
「だがそうはさせん。今ここで滅ぼしてやる」
「それでか」
 鬼は蝿叩きを見て凄みのある笑みを浮かべた。
「それで私を滅ぼすつもりだな」
「如何にも」
 壬は答えた。
「貴様の様な邪な鬼はこれ以上のさばらせるわけにはいかぬからな」
「ふん」
 鬼はその言葉を鼻であしらった。
「その様なもので私を倒すとは片腹痛いわ」
 さらに髪が逆立ち動き回った。壬の側にいる陳はそれを見て顔面蒼白となった。
「いえ」
 だが彼女もそこで踏み止まった。
「この人を御守りしないと。さっきの言葉の通りに」
 そして夫の側で彼を護るようにして立った。そして鬼を睨んだ。
「貴様は今はどうでもよい」
 鬼は彼女に対して言った。
「今はこの男の肝を喰ろうてやる方が先だからな」
 そして男に顔を戻した。少しずつ歩み寄っていく。
「来るか」
 壬は身構えた。そして鬼の隙を窺う。
 一瞬で決まる、そう察した。彼は鬼の動きから目を離さなかった。
 鬼が跳んだ。その瞬間壬も動いた。
「食らえ!」
 そして蝿叩きを繰り出す。だが鬼はそれを掴んだ。
「そんなものは通用せぬと言った筈だ!」
 そしてそれを握り潰した。その勢いのまま壬の腹に腕を突っ込んだ。
「うぐっ!」
 壬は声をあげた。その瞬間鬼は壬の腹から肝を取り出した。
「これでよし」
 鬼は手に持つ血の滴る肝を見て笑った。その顔は異形の者そのものの顔であった。
「では早速喰らわせてもらうか」
 そしてそれを口に入れた。ガツガツと食べた。
「これでよし」
 最後に口の周りついた血を舐め取った。人のものとは思えぬドス黒く長い舌であった。
 そして鬼は風と共に
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