夫を救った妻の話
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「鬼をですか」
「そうだ。これでも駄目なら自分自身を呼べ、と仰った」
「そしてその仙人はどちらにおられるのですか」
「うむ」
彼は仙人が泊まっている宿の場所を妻に話した。彼女はそれを聞き終えて頷いた。
「わかりました。それではこれで駄目だった時には参りましょう」
「そうはなって欲しくはないがな」
彼は難しい顔をしてそう言った。これで鬼を退けたいのだ。
「あとはこれじゃ」
そして今度は懐から数枚の札を取り出した。
「もらってきた。これを家の所々に貼るとよいそうじゃ」
「魔除けのお札ですね」
「うむ。ただしこれが効くかどうかは疑問らしい」
「何故ですか」
「あの鬼は相当強力な奴らしい。果たして札が通じるかどうか疑問だそうじゃ」
「そうなのですか」
「だがないよりはましだ。さあ、早速貼るとしよう」
「わかりました」
貼り終えた頃には日が暮れていた。この日は女が家に来ることになっていた。
「気をつけるようにな」
「はい」
二人は使用人達を早くに休ませた。無駄な被害はできるだけ少なくしたかったからだ。そして鬼を待った。
真夜中のことであった。不意に正面の門が派手に叩き壊される音がした。
「この様なものを貼ったのは誰だ!」
無気味な女の声がした。あの女のものであることは間違いない。
だが声の質はまるで違っていた。地の底から響き渡る様な声であった。
「来たな!」
やはりお札は効果がなかった。壬はすぐに身構えた。
「一体何事ですか!?」
「正門の方からですが」
その音に驚いた使用人達が慌ててやって来た。だが壬は彼等に対して言った。
「案ずることはない」
「しかし」
それでも彼等は不安で仕方なかった。壬はそんな彼等に対して言った。
「その方等は何も心配することはない。よいな」
「はい」
彼は使用人達にとっても信頼できるよい主人であった。だからこそ彼等はその言葉に従った。
「安全な場所に隠れておれ」
「わかりました」
彼等は主の言葉に従った。だが陳はまだ夫の側にいた。
「御前も隠れるがいい」
彼はそんな妻に対して言った。
「いえ」
だが陳はその言葉に対して首を横に振った。
「夫を守るのが妻の務めです。それを果さずして何が妻でしょうか」
何時になく強い声であった。
「貴方を何としても鬼から御守り致します。ですから御安心下さい」
「何としてもか」
壬はその強い言葉を聞き心中思うものができた。
「わかった」
そしてこう言って頷いた。
「では頼むぞ。そろそろここにも来るからな」
「はい」
その時目の前の扉を引き裂く音がした。その扉にも
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