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夫を救った妻の話
夫を救った妻の話
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たようですな」
「そのようですね」
 だが全く嬉しくはなかった。二人は蒼白になり鬼を見ていた。
 鬼は棚から何かを取り出した。それは人の皮であった。
「どうやら餌食になった犠牲者のようですな」
「何という奴だ」
 だが怒りは湧かなかった。むしろ恐怖の方が大きかった。
 見ていると絵の具を取り出してきた。そしてそれでその皮に描いていく。
「何をする気だ」
 見ているとすぐに描き終えた。そしてそれを頭から被った。
 するとそこにはあの女がいた。美しく、また艶のある姿になっていた。
 そしてその姿のままその部屋を後にした。
「ううむ」
 壬も仙人もそれを見て考え込んでいた。
「これはまたかなり恐ろしい奴ですな」
「どうしたらいいでしょう」
 壬はまだ顔が青かった。だが恐れているばかりでは何もはじまらない。仙人に対策を問うた。
「それですが」
 彼等はまずその家から去った。そして仙人の宿に入った。そこはごくありふれた普通の宿であった。
「丁度鬼を倒す為のものを幾つか持って来ておりまして」
 彼はそう言いながら荷物の中を調べていた。
「これなら大丈夫でしょう」
 そして何かを取り出し壬に手渡した。
「これは」
 それは蝿叩きであった。
「無論ただの蝿叩きではありませんぞ」
 仙人は言った。
「これは鬼を倒す為の蝿叩きです」
「鬼を倒す為の」
「はい。こうした姿になっていますが実際は蝿を叩く為にはありません。あくまで鬼を倒す為のものなのです」
「そうなのですか」
「これだとあの鬼も倒せるでしょう。ただし」
 彼はここで注意をした。
「これで駄目ならばまた来なさい。その時は私自身が行きます」
「はい」
 こうして壬は鬼を倒す為の蝿叩きをもらった。そして家に帰った。
 家に帰ると妻の陳にすぐに事情を話した。だが彼女は首を傾げていた。
「本当でしょうか」
「間違いない、この目で見た」
 壬は険しい顔でそう言った。
「あの女は鬼だ。それも人を喰らう」
「人を」
「うむ。人の皮を被っているのを見た。おそらく以前に食い殺した者であろう」
「では今の姿は」
「おそらく前に食われた犠牲者なのだろう。その皮を使っているのだ」
「本当ですか」
「わしを疑うのか」
「いえ」
 それに対して首を横に振った。夫のことは知っているつもりである。ましてや夫を疑うつもりもなかった。
「ではどうなさるのですか。このままですと」
「それで先に話した仙人からこれを頂いた」
 ここで一つの蝿叩きを取り出した。
「蝿叩きですか」
「無論只の蝿叩きではない」
 彼は言った。
「鬼を倒すものらしい」
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