夫を救った妻の話
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の方も順調であった。彼は何事もなく陳と女のもとを行き来する日々を送っていた。
ある日のことであった。壬は市場に出掛けた。
目的は妻への土産であった。ふと気が向いたのだ。
「いつも苦労をかけているからな」
彼は妻の内助にはいつも感謝していた。
派手さはないが美しく気立てのよい女である。あの女を囲っても嫌な顔一つせず受け入れてくれた。そして商売でも何かと助けてくれる。
「わしには過ぎた女房じゃ」
本当にそう思っていた。そう思うといてもたってもいられなくなったのだ。
「何を買おうか」
市場の中を進む。櫛か簪が妥当なところであろうか。
「あいつの好みというと」
派手なものは好まない。地味なものを好むのだ。
だとすると限られてくる。だが出来るだけ値のはるのが欲しかった。
そこには見栄もあった。仮にもそれなりの財を持っている。ならばけちりたくはない。
それにも増して妻にいいものを着けてもらいたかった。これまでしてくれたことを考えると自然とそう思えるのだ。
選ぶのは時間がかかった。店を替えていき選んでいく。
「ううむ」
こう探してみると案外いいものがないのだ。
「刀ならすぐに見つかるのだがのう」
これは商売柄当然であった。彼は何しろそれを取り扱っているのだから。
だから櫛や簪に疎いのも当然かも知れなかった。普段気にもとめていないと中々わからないものだ。
彼は市場中を歩き回った。そしていいものを探した。
だがどうしても見つからない。ふとそこで一人のみすぼらしい老人の横を通り掛かった。
「む」
見れば髪と髭は伸び白くなっている。そして道服を着て杖をついている。どうやら仙人の様だ。
「仙人か」
仙人も街に出ることはある。この世にいると何かと必要になるからだ。それが嫌ならば天界に行くといい。だがこの世も面白くあえて残っている者もいるのだ。
壬も今通り過ぎた仙人はそうした類かと思った。太原は大きな街なので仙人を見ることも珍しくはないのだ。
通り過ぎた時仙人はぴたり、と足を止めた。そして壬の方を振り返った。
「もし」
そして彼に言葉を掛けた。
「私ですか」
言葉を掛けられた壬はすぐにその仙人の方に顔を向けた。
「はい」
見ればその仙人の顔は何やらいかめしくなっていた。
「これはよくない」
そして壬の顔を見て言った。
「貴方の顔には死相が出ている」
「死相が」
流石にそう言われては彼も顔色を変えずにはいられなかった。
「ご冗談を」
内心暗澹としたがあえてそれを隠して言った。
「いえ」
だが仙人は首を横に振った。
「事実です。このままでは御命が危ないですぞ」
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