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夫を救った妻の話
夫を救った妻の話
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[9] 最初
の為なら何でもしようと決意している妻の強い声であった。
「そのお気持ちです」
 道士はそこで言った。
「その貴女のご主人を思う気持ちがご主人を救われたのです」
「この気持ちが」
「そうです、その想うお気持ちが必要だったのです。それがなければこの薬は何の役にも立ちませんから」
「そうなのですか」
「はい、この薬は想う気持ちを形にするものですから」
「それが魂になるのですね」
「そういうことです」 
 道士は言った。
「もうすぐその想うお気持ちが功を為しますよ」
 見れば壬の顔が見る見るうちに赤らんでいく。そして傷口も塞がっていた。
「ほら」
 そして彼は目を開けた。ゆっくりと棺から出て来た。
「私は助かったのか」
「はい」
 陳は笑顔で答えた。
「鬼に肝を食われたというのに」
「奥方が救われたのです」
 仙人が言った。
「御前が」
 壬は妻に顔を向けた。
「御前が私を救ってくれたのか」
 彼は棺から出た。そして陳のもとに歩み寄った。
「すまない、色々と苦労をかけた」
 そう言って妻を抱き締めた。
「いえ」
 だが彼女はそれに首を横に振った。
「私は貴方だけが全てですから。ですから」
「そうか」
 それ以上言う必要はなかった。こうして彼等は再び抱き合うことができるようになった。
 生き返った壬は以後も商売に励み財を為した。そして太原で知らぬ者はいない程の金持ちとなった。
 その傍らにはいつも美しい妻である陳がいた。彼女はこれまで以上に夫を助け内助の功を発揮した。そして二人は子に恵まれ何時までも仲睦まじく幸福に暮らした。
 この妻を太原の人々は褒め称えた。そしてその話は何時までも語り継がれていったのであった。


夫を救った妻の話   完



                2004・10・19
[9] 最初


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