短編集
少年少女の出会いの話
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を変える目薬型魔法アイテムを使えば“カトレーンの忌み子であるティア”は一時的にでも姿を消し、“フルールで、平凡ではあるものの満たされた暮らしを送る少女”がそこにはいる。だから先ほどの青年は、どうやったって彼女がティア=T=カトレーンだとは解らない。
だが、そんなにティアにカトレーンの姿を晒してほしくないのなら、家に閉じ込めてしまえばいいのに、と思う。例えばここで突然ウィッグを取って、そのタイミングで魔法アイテムの効果が切れたとして、そうなれば変装の意味なんてない。
(いつまでも大人しくしてる訳ないのに)
いつ牙を剥いてやろうか、いつその首を掻っ切ってやろうか。ティアの頭の片隅には、いつだってその考えが根付いている。
別にティアは、自分の今の状況が嫌だからシャロンを嫌う訳ではない。理由なんて特になくて、強いて言うならば「ああ、何だか気に入らないな」といったところだろうか。
明確な理由を以て好きだと思えるものはそんなにない。何故好きなのか、どこが好きなのかと聞かれて理由に困る時だってない訳じゃない。好きなもの全てに好きな理由をつけられる訳ではないし、それが嫌いな場合であってもそうだ。なんとなく好き、もしくはなんとなく嫌い…なんて事もあるだろう。
ティアが実の祖母に向ける感情は、まさしくそんな曖昧なものだった。
―――――と。
「いやああああああ!離してっ……娘を返してえええええ!」
響いた絶叫に、咄嗟に足が止まる。振り返ると、つい先ほどまで買い物をしていた店の前で女性と覆面をした男が何やら揉み合っているのが見えた。
その2人の間には、恐怖からか顔をぐちゃぐちゃにして泣く少女がいる。見た感じはティアと同い年くらいだろうか。
「うるせえ!ごちゃごちゃ言ってっと今ここで殺すぞ!」
「いやっ、やめて!どうして……私が何をしたっていうの!?」
「お母さん!お母さんっ!」
喚く男、泣き叫ぶ母親、助けを求める娘。
その姿を視界に入れながらも、ティアはぴくりとも動かなかった。
ティアだけじゃない。道を歩く青年も店先で声を上げる店員も、ちらりと揉み合う姿を見た通りすがりの人も、誰1人として助けようとしない。それどころか、見て見ぬフリさえ平気でしてみせる。
「…馬鹿らし」
ポツリと呟く。こういう事を周りが見過ごすのは日常茶飯事だが、何度見ても呆れてくる。
“魔法都市”とはこういう場所だ。誰かが困っていても手なんて差し伸べないし、それが当たり前に犯罪と認識される事態であっても、この街の人は自分が巻き込まれな
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