第一章
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カミース
パキスタンの宗教はイスラム教だ、このことは世界でもよく知られている。
それでカラチの銀行で働いているズィーナト=アミンも毎日五度の礼拝とラマダン、そして他の信仰を忘れていない。だが。
彼女はある日だ、学生時代からの友人で今は旅行会社に勤めているタハミーネ=ラウスに困った顔で漏らした。
「この前親に言われたの」
「何て言われたの?」
「結婚しろってね」
言われたのはこのことだというのだ。
「言われたのよ」
「それ私も言われたわよ」
タハミーネはその切れ長の目で返した。睫毛は長く面長で左目の付け根に黒子がある。浅黒い肌にそれが目立っている。長身で胸が目立つ。
「そろそろってね」
「どの娘も言われることは同じね」
ズィーナドはその大きな丸い目を持つ顔でぼやいた。丸顔で髪の毛はやはり伸ばしているが後ろで団子にしている。背は長身のタハミーネより二十センチは低い。だが胸は服の上からはっきりと浮き出ている程だ。むしろタハミーネよりも大きい。
「もうそろそろってね」
「そうよね、それでだけれど」
「断ることはね」
それこそとだ、ズィーナトはぼやいて言った。
「しにくいわね」
「むしろ出来ないわね」
「ええ、ちょっとね」
こう言うのだった、喫茶店で一緒にコーヒーを飲みつつ。
「無理ね」
「親の言葉はね」
「コーランよりは弱いけれど」
それでもと言うのだった。
「強いからね」
「イスラムではね」
「だからね」
「お互いそろそろね」
「結婚しないといけないわね」
「じゃあ二人共ね」
「ええ、その時が来たみたいね」
結婚するその時がとだ、ズィーナトも言った。
「どうやら」
「そうよね、それで相手の人は」
「親が見付けてくるってね」
「そこも一緒ね」
「イスラムだからね」
「そうそう、結婚はそうなのよね」
「家と家。それでも別にね」
ズィーナトもタハミーネもそれでいいと思っている、何故ならそれがイスラム社会では普通の結婚だからだ。勿論パキスタンでもだ。
「いいけれど」
「そうよね、それじゃあお仕事は」
「多分辞めてね」
銀行員のそれをというのだ。
「それでね」
「もう後は。なのね」
「家庭に入ってよ」
「奥さんになるのね」
「あんたもでしょ」
ズィーナトはタハミーネ、自分よりも二十センチは高い彼女に問うた。
「旅行会社の方は」
「嫌に言われたわ」
「辞めろって」
「それで家に専念しろってね」
「そう言われたのね」
「あんたはそこまで言われてないのね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「服新しいのを仕立てろって言われたわ」
「服をなの」
「そう、カミースをね」
まさにその服をというのだ。
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