9部分:第九章
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第九章
「宜しければ私共もそちらに」
「御一緒させて頂けませんか」
「画伯のお屋敷にですか」
「はい」
使用人さんの言葉に対してこくりと頷いたのであった。
「左様です。宜しければ」
「是非」
「またどうして」
「はい、実は」
「私達も前々から絵に興味がありまして」
二人は今度はこう言うのだった。
「それで是非一度はあの画伯のお屋敷に行ってみたいと思っておりまして」
「それでなのです」
「そうだったのですか」
「宜しければ、ですが」
「如何でしょうか」
「それは」
使用人さんは二人の女にこう言われて戸惑った顔になったのだった。
「私に言われましても」
「駄目なのでしょうか」
「やはり」
「いえ、そうではなくてですね」
その大きく立派な玄関の扉の向こう側で困った顔になっていた。家の玄関の造りは和風でこれまた実に見事なものであった。
「私にはそういうことを決めることは」
「できませんか」
「申し訳ありませんが」
本当に申し訳なさそうな顔で述べたのであった。
「そういうことは」
「そうなのですか」
「お嬢様次第ですが」
「牧田さん」
ところがここで玄関のところから声がした。
「私はいいのですが」
「お嬢様」
その牧田さんと呼ばれた使用人さんはその声で後ろを振り向いた。二人は彼女の向こうを見た。するとその視線の先にいたのは。
桃色の花柄の振袖を着た黒い髪の少女だった。その黒髪は長く絹の様に奇麗でさらりとしている。その顔はまるで人形の様に白く瞳は大きい。その少女の言葉だった。
「もう準備は終えられたのですか」
「はい」
少女は静かに彼女に対して答えた。
「私は別に。先生の絵を御覧になられたいのですね」
「はい、そうです」
「その通りです」
二人は少女の言葉に対して頷いた。
「中鷹早百合さんですね」
「そうです」
少女は一人の年輩の方の言葉に答えた。
「そうでしたら私は」
「有り難い御言葉です」
「それなら」
「ええ。ただ」
「ただ?」
「画伯は少し気難しいところがありまして」
早百合という少女は不意にこう言い出したのである。
「そこは御注意下さい」
「ええ、それはわかっていますので」
「お話は聞いています」
「それも御存知なのですね」
二人に対して確かめるようにして尋ねてきた言葉だった。
「それでは。それでは」
「はい、御同行させて下さい」
「それで」
こうしてこの二人は彼女について画伯の屋敷に行くのだった。その画伯の屋敷の門は相変わらず禍々しい雰囲気を醸し出していた。だが早百合はそれに全く気付くことなく門の隣の勝手口の鍵を開けてそこから屋敷の中に入った。やはりその二人も同行していた。
「この庭は」
「これは
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