暁 〜小説投稿サイト〜
Absolute Survival!! あぶさばっ!!
第三話 覚悟と決別
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できない。むしろあれは歩くというよりも、重心を前に傾かせている、というのが正しい気もする。

 しかし、問題はその尋常ではない筋力と『奴ら』の数だ。

 一度掴まれてしまえば、絶対に逃れることはできないだろう。

 しかも二、三人ならまだしも、一度に数十人単位で襲われたり、包囲でもされれば、確実に殺される。

 そうなると、広い大通りや、見晴らしの良い場所などは使えない。だからと言って狭すぎる路地なども、前後を挟まれれば一貫の終わりなのでこれも使えない。

 さて、どうするか。

 下水道を使うか。しかし、光源を何も所持していない今、真っ暗闇の中を手探りで移動するのは無理だ。しかも下水道は、地上が見えないので迷子になる可能性だってありうる。

 今は夜だ。本来なら動き回るべきではないが、ここにずっと居ても状況は変わらない。

 あいにくと月明かりは眩しく、街灯はまだ点いている。地上は明るい。

 そうなると、なるべく地上の光の下で行動でき、『奴ら』に見つからない移動の方法……

「街渠……か」

 あった。一つだけ、かなり安全で灯りの下で移動できる、ただ一つの方法。

 街渠とは、舗装された街路の雨水などが流れ込む、排水用の側溝のことだ。

 この琉が住んでいる地域の街渠は、人ひとりが腰をかがめて通れるくらいに広くて大きい。構造はコンクリート造りで、雨の降らない日には全く水は溜まっていない、まさに理想的な通路になるのだ。

 なぜこんなことを琉が知っているのかと言うと、幼い頃、よく街渠の中を探検と称して歩き回ったことが何度もある。後日、危ないからという理由で立ち入りは禁じられたが、まさかこんな事態で役に立つとは。

 しかも好都合なことに、琉が隠れているこの橋の下の側には、その街渠への入り口があった。

 街渠の中で『奴ら』に遭遇する確率は、非常に少ない。この街渠の出入り口は、河口の側にしかないのだ。そこから『奴ら』が侵入しているとは考えにくい。

 しかし、万が一『奴ら』が居た場合、ほぼ絶体絶命だ。思うように身動きのとれない狭い空間で、『奴ら』の筋力を相手にするとなるとあまりにも分が悪すぎる。


 これは『掛け』だ。


「仕方ない……」

 琉は音をたてないように立ち上がって木刀をシャツの背中に差し込むと、静かに街渠の入り口まで移動する。

 距離は隠れていた場所から三十メートルほどだったが、どうやら『奴ら』には見つからなかったようだった。

 安堵しつつ街渠を覗くと、ぼんやりと街灯や月明かりに照らされた横穴が、延々と奥まで続いている。

 リュウは腰をかがめて街渠の中に足を踏み入れると、そのまま颯の家の方角を思い出しながら静かに移動を開始した。



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